第一話:魅入られた金の瞳 「ん? 生きている―?」 青年は一人の人物と出会った。青年と大差ないだろう二十歳前後の年齢。露草色の髪の毛と灰白色の瞳を持った人物が興味津々に青年を見ている。 「生きているよ」 地面にふしていた青年は顔を上げ起き上がる。 「よかったよかった?」 「疑問形かよ」 「僕は水渚(みなぎさ)君は?」 「……千朱(ちあけ)」 「千朱か」 露草色の髪の人物水渚は無邪気な頬笑みを見せる。何処か毒を含むその笑顔に、金髪の青年千朱は顔を顰める。 「此処に人がいたとはな」 「あぁ、君新人かー。街に行けばもっと人がいるよ」 当然のように答える水渚に、千明の脳内に疑問符が浮かぶ。 ――今、なんといった? 耳を疑う言葉に首を傾げる。 二人が立ちならぶと、千朱の方が頭一つ分くらい高い。 「罪人の牢獄、死の大地、奈落の底そんな名前ばかり持っているこの牢獄に人が生きていることがおかしいんでしょ?」 「あ、あぁ」 「それは最初の話だけ。後々は街が出来て人々が生きていけるようになりましたとさ、といっても街以外には砂の毒が周囲を待っているから長時間いると死に至るんだけどね」 「……」 「まぁ生と死も紙一重。常に天平はどちらにも傾くよ」 水渚の言葉で理解した。この人物も決して善人ではないことを。そして疑問に思う、何故善人だと一瞬でも思ったのか、その疑問が後後まで千朱の脳内に残ることになるとは今はまだ知らない。 そして、千朱が一番疑問に思ったのは自分に対して何も言ってこないこと―― 「街まで案内しようか?」 善意からか悪意からか、水渚は千朱に一つの提案を持ちかける。 「……この瞳と髪を見て、何も思わないのか?」 自ら口にして後悔した。 態々相手が言ってこないことを自ら墓穴を掘るような真似をしなくてもよかったのだと。 「ん? あぁ、今までに見たことないけど――綺麗な色だね」 その瞬間千朱の中の何かが飛んだ。切れた。 そのまま千朱は知らず知らずのうちに水渚に殴りかかっていた。 だが、水渚はそれに気がついて数歩後ろに下がり千朱の攻撃をかわす。 特に驚いた様子はない。 「何?」 「……お前は俺を最大に侮辱しやがって!!」 怒りで頭がおかしくなりそうだった。目の前が何も見えなくなるほど。 よりによって千朱にとって最悪の冒涜を平然と口にしたのだから。 「意味がわからないんだけど……僕を殺すつもり?」 最後だけ冷静に、淡々と感情の起伏は何もない口調で水渚は問う。 そこに先ほどまでの無邪気さは欠片もない。 「殺す殺す、ぜってぇ殺す」 「そう、なら僕も千朱を殺すよ」 [*前] | [次#] TOP |