零の旋律 | ナノ

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「自ら生きる為に、大切な部分を封印したから。数多の呪詛から身を守るためにただ一人を求めたから、そして出会ってしまったから」

 律君の表情は見えない。これでいい。

「強がりだね」

 表情が見えないからこそ、言葉を紡げる。

「君はさぁ、強がりなんだよ。愛情とか、悲しみとか、理性とか、優しさとかそういった感情たちを君は封印した。他人を殺し続ける為に、他者の人生を狂わせるために封印した。幾重にも巻き重ねた鎖を君はもう君自身で解くことは出来ない。玖城の人間だけが、君の拠り所。君の唯一の場所」
「そうだ、それ以外何もいらない」
「ほら、そうやって拒絶して、どんどん自らの封印の枷を増やしていく。君が君の心を守るための、縛るための、壊す為の防御壁として」
「黙れ」
「君はこれからも人を殺し続ける。ただ部屋に掃除機をかけるように黙々と。野菜をまな板で千切りするように淡々と」

 そして、いつか僕が捕まえてあげる。僕はまだこの国が好きだよ。確かにもう後には戻れないほど腐っているけれど、それでもこの国が好きだよ。
 君はいつか、何かを壊す。だから、その前に僕が捕まえてあげる。逃げ道をなくし、決定的な証拠を突き付けてね。

「善悪の報は影の形に随うが如し……だよ、君も僕も」
「汁を吸うても同罪ってか」
「そういうことだね。さぁ、早く僕の後ろからきえなよ。僕は君の心を抉る真似しかしないよ」

 律君はそのまま歩き始めた。
 僕を殺そうと思い始めていた癖に結局僕を殺せなかったね。



 さて、僕は是からの後始末をしなきゃ。
 無罪君はもう冤罪も晴れてお日様の元に出られるだろう。
 荒勢君はどの道を進むかな。
 征永の一族には後で僕から花束を贈ろう、犯人を捕まえられなかった僕からの花束なんて欲しくないかもしれないけどね。
 依頼人には誤っておかないとね。

 後は――そうそう、チェス盤を注文しないと。

 いつか同じ盤上で勝負しようか。


 END


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