零の旋律 | ナノ

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「つまり、一番簡単な方法。何処かで君が無罪君を“見かけた”そう主張すればいいだけ。上位貴族の志澄家の言い分を疑う人は誰もいない。ましてや君は犯人だ。それを覆す証拠をつくる必要はない」

 冤罪で捕まっている人物のアリバイを証明してくれれば、彼は犯人ではなくなる。
 君のその地位、利用させてもらうよ。
 征永悪いけど、今回は生きた人間を救うことにした。今のままでは律君は捕まえられないからね。

「……俺が見かけたそう証言することで、お前は俺を見逃すってことだよな」
「うん」
「色々考えたんだけどね、君と言う駒は厄介すぎる。征永の一族には悪いけど、僕は生きている人間を救う。話してしまったからね。全く見ず知らずの人より出会ってしまった人の方に感情が動いたんだよ。でも、残酷だよね。いつも通りってのは」

 いつも通り。いつも通りって言葉は残酷なのかもね。
 確かに征永が死んで悲しむ人も沢山いる。でも世界の大多数の人々は征永が死んだところで顔色一つ変わらずに過ごしているのだろうね。それが人々にとっていつも通りの世界ならば――。

「だな」
「こうして、じかに見ると実感するしかない。否応なく実感させられる。結局誰かが死んでも、何も変わらない。根本の物は何一つ変わっていない、人が死んでも明日はやってくる。明後日もやってくる。そして歴史は流れ過ぎ去っていく――残酷だね」
「話を戻せ」
 
 少し話を反らしたのをすぐに元に引き戻されてしまった。
 油断ならないなぁ。余計なことを僕には言わせないようにしている。抜け目ないね。

「そうだね、志澄律君。君を僕は見逃す。その代わり無罪君の無罪を立証して」
「……いいだろう」
「へぇ、案外素直だね。まぁそれで事件が迷宮入りするのなら、君のリスクはもっとも少ない」
「もっとも少ないリスクを叩きつけてきたのはお前なはずだ」
「まっ、そうだけどね。じゃあ交渉成立」

 交渉成立。これで僕の役目は今回で終わりだ。
 でも――僕の目の前を去っていく律君にひと言いいたくなった。

 僕の個人的感想。これが君の琴線に触れることは重々承知であえて言わせてもらう。

「君は憐れだね」

 予想通り律君は歩みをとめた。

「君は憐れだね」

 そんな律君を見ていたら、僕は二回も同じことを繰り返しいた。

「何故、そう思う?」
「普通を望まなかったから」

 質問されたのなら答えよう。否、質問されなくても答えていたけどね。
 少し、勝敗を此方に片向けさせてもらうよ。ステールメイトはさっきまでで終了。
 此処からは第二回戦。


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