零の旋律 | ナノ

Discovery


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 李真は、二度目の捜索をしに足音が近づいているのを感じ取った。
 恐らく自分たちがいないことが露呈して探しに来たのだろう。こうなってしまっては二度目まで誤魔化しきれるとは思えない。
 殺すか――否か、李真は袖口に隠した細いナイフを手に思案する。足音が近づいてくる、複数の足音だ。恐らく人数は三人。李真はナイフを投げ捨てる。下手な抵抗はしない方がいいと判断したのだ。
 相手の出方や目的も不明。一瞬で相手を殺害出来れば問題ないが先手を交わされた場合、奈月に被害が及ぶ危険性がある。ナイフではなく李真本来の獲物である糸を使うことも候補に上げたが、未知の相手も李真と同様糸を扱うことを鑑みれば糸の存在を見破られる可能性が高い。見破られてしまうと――糸を武器として使わないように律している李真としては芳しくない。糸を使うのならば何が起きたか理解させない前に一撃で絶命させ、且つ周囲に糸を認識させない必要がある。

「あれ? ここさ、木目が若干違うよ?」
「本当ですね……なら、此処に隠れているみたいですね。此処を探したのは未継でしたっけ」
「そうだよ。悪いな、見過ごした」
「まぁ問題はないでしょう。普通見過ごしますよ、こんな辺境の村で平和に暮らしてい
る人間がクローゼットの中とかベッドの下以外に隠れる場所がある、なんてそうそう思いませんし」

 会話は隠れている李真と奈月にも届く。隠れている人物まで聞こえていることを考慮して会話を聞かせているというよりも、そんな可能性を考えないで和気藹藹と喋っているような印象を李真はうけた。

「んじゃ、さっさと捕まえちゃお―よー」
「俺が開ける」
「宜しくね〜重かったら僕も手伝ってあげるよ」

 女子供でも持ちあげられる程度の重さである木目を上げるのは簡単で、あっさりと持ちあがる。

「おお、いたいた」

 覗きこむまでもなく、板を持ち上げれば二人の人間が隠れていた。未継の目の色が一瞬変わる。

「悪いけど、隠れているのは終わりですよ」
「……そうみたいですね」

 裏咲の言葉に、李真が慎重に答える。奈月には余計な行動を取らないように予めいい含めている。もとより、このような状況では奈月は暴走するか恐怖で何も出来ないかの二択だ。

「では、面倒なので出て来てくれますか? もちろん、余計な抵抗はしないで下さいね」

 裏咲が丁寧な口調で告げる。李真と奈月はそれに逆らわなかった。手首を縄で絞められ、広間に連行された。村人が集められている場所の地面に座っているよう裏咲から命令される。

「ごめんね、奈月ちゃんに李真君。子供が君たちのこと話しちゃって」

 申し訳ない、と村人の一人が謝る。

「問題ないですよ。私たちだって隠れていたのですから」

 見つからなければ村人を見捨てる魂胆で李真はいた。だから謝られる必要はない。
 李真は現状を見据える。襲撃者の服装に見覚えがあった。
 過去――リアト・ヘイゼルとして活動していた時に知識として得ていた。

「(類とも組織……様子からして恒衛は元類とも組織の一員だったということですか。それに加えて、あの三人組は確かお裁縫セットと呼ばれる三人組の実力者。彼らを従えているのは上司と呼ばれる……人間大好きの人格破綻者。まずいですね)」

 李真は現状打破を思案するが、適案は浮かばない。李真は現在リアト・ヘイゼル――暗殺者として力を振るうことを自ら律している。
 糸を使えば、下手すればリアト・ヘイゼルであることが露呈する。
 暗殺者はアルシェンド王国の牢屋で何者かに殺害された、とされ死んでいるのにも関わらず生きていることが露呈すれば、まともに暮らしていくことは叶わなくなる。


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