零の旋律 | ナノ

Organization


 李真と奈月が隠れている頃――

 ダイヤ模様のピンクとその周りを赤で彩り、黒のケープを着た四人の人間が一列に並んでいた。隙のない立ち振る舞いは相手に逃げる選択肢を失わせる威圧感が漂っている。

「これで全員か?」

 癖のあるネイビーブルーの髪に、ガーネットの瞳を持つ、この中では最年長の人物が残りの三人に声をかけた。

「恐らく。逃げた形跡はありませんしね」

 彼の言葉に答えたのは、ローズレッドの髪をサイドテールで纏め緩いウェーブを描きながら腰までの長さがある人物だ。トパーズの瞳が怜悧な印象を与える。右頬には宝石のような物を埋め込んでいるのか特徴的な赤い石の輝きがある。黒のケープを着ているのは他の三人と同じだが、彼だけは背中一面を覆う、白のファーを纏っている。

「裏咲が言うなら、外に逃げるなんてことはないよねー。それにさ、目的の人物も捕まえられたんだし、仮にいても別にいいんじゃない?」

 場の緊迫した雰囲気を和ませるような明るい声色が響くが、マリーゴールドの瞳は酷く冷淡で不気味さを現している。パールホワイトの髪に、コーラルレッドで染めてある。染め方は特徴的で、どうやれば染まるのか、花柄模様が頭に描かれていた。

「駄目だ。彼一人だけを殺すなんてことは“選べない”全員に死んでもらうだけだ」

 ネイビーブルー髪の青年――架秦(かしん)が断言する。
 視線の先には、他の住民が逃走出来ないよう軽く手足を縄で縛られているのに対して、一人だけ雁字搦めにされている青年がいた。
 年の頃合いは二十代中ごろで、この村には三か月前にやってきた青年だった。人当たりのいい好青年で、すぐに村人とも仲良くなり特に、村の数少ない子供たちからとても懐かれていた。

「……相変わらずトチ狂っているな」

 反吐がでる、そんな表情で青年ははきすてる。彼の名前は恒衛(こうえ)だ。

「何を言っている。俺はただ人間が大好きなだけだ」
「それを狂っていると言わずして何と言う」

 架秦は首を傾げる。彼は本心から人間が大好きなだけだ。だから恒衛だけを特別扱いして殺すことが出来ないだけだ。殺すなら――この場にいる仲間以外全員。殺さないなら誰も殺さない。

「所で恒衛。何故組織を脱退した? しかも勝手に」

 恒衛に話しかけたのは、ランプブラックの髪をハーフアップにして纏めていて、ストロベリーの瞳が恒衛の行動が理解出来ないとあきれ果てていた。名前は未継(みつぎ)

「……あの組織にいる意味が理解出来なかったからだ」
「意味ってそんなもの、俺たちが何をしてでも見つけたい“探し物”があるからだろ。探し物が見つかってもいないのに脱退なんて馬鹿げている」

 組織名ザイン、そこに恒衛は彼らと同じく所属していた。通称類とも組織ともよばれる組織を、恒衛は無断で脱退した。逃走した。裏切り行為であることを十分承知の上で。彼は逃げ切れると鷹を括っていた。まさか居所を突き止められるとは思いもしなかったのだ。
 逃げた先では一般の青年を装って暮らしていたし、人の噂も届かないような田舎の村で過ごしていた。

「確かに俺にだって探したいものはあったが、俺はあんたらみたく本当の意味で何をしでかしても手に入れたいわけじゃなかった」
「組織に入って知らなかったから止めるなんてそんな都合のいいこ」
「あれー? ねぇねぇ奈月ちゃんと李真はー?」

 その時、場違いな子供の声が響いた。未継は途中で言葉が止まる。

「……!!」

 大人は一斉に顔色を変える。この場に村の人間は全員いない。
 ただ、村人にとっての謎の襲撃者が勝手に全員いると判断してくれたから黙っていただけだ。奈月と李真が無事に逃げ伸びてくれればいいと願っていた。
 だが、その判断を五、六歳の子供に判断出来るはずもない。
 彼らは顔を見合わせる。

「二人、この場にいないのか? でも裏咲、外には誰も逃げていないんだよな?」
「えぇ。誰も逃げていませんね」

 カーマインの髪をサイドテールに結ってある青年裏咲(りさき)が断言する。彼は村の外に誰かが逃走したのならばすぐに察知出来るように“糸”を張り巡らせていた。だが、その糸に引っ掛かった者は誰ひとりとしていない。故に、この場にいない二名は村の中にまだいる。

「ということは家の中に隠れているのか?」
「でもさー隠れてないか探したよねー?」

 面白そうにパールホワイトの髪にコーラルレッドで花模様に染めた青年依有(いある)が何が面白いのかけらけらと笑う。

「あぁ。でもどっかに秘密の地下室があったりしてー」
「なんでこの村にそんなもんあるんだよ」

 依有の発言に未継が呆れながらツッコミを入れるが、突拍子のない発言ではあるがその可能性は確かに零ではないと同時に思った。

「じゃあ、もう一度探して来い」

 架秦の言葉に、裏咲、未継、依有の三人が頷いた。


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