Disturbing 「どうするの?」 「万が一の時に隠れられるように作って置いた地下に隠れていよう。それでばれたらその時はその時考えるさ」 ふと、視線をずらすと糸を見なれているがこそ視認が容易だった李真の瞳から糸の存在が消えていく。 「――!」 目を見開いたが、既に外へ視線を向けていない奈月は李真の変化に気付かなかった。 「わかった」 万が一の時のために――表向きは物置として土を掘って作った地下へ木の板を外して李真と奈月は隠れる。 何が目的でこの村へ用があるのかはわからないが、穏便な雰囲気ではない。 ひょっとしたら李真の正体が露見して誰かがやってきたのかもしれないと奈月は思ったが、李真が口元に笑みを浮かべながら首を横に振った。 「零とは言えないが違うだろ」 「どうしてわかるの」 「糸だ。糸を武器にしている人間はそう多くはない。それに」 「それに?」 「……奈月、一応これとこれを」 奈月の疑問には答えず、李真は黒の手袋を渡す。奈月がよくわからないままに、手袋をはめると、今度は殺傷能力が低い糸を手渡した。 「こっちは殺傷能力が殆どない糸だから大丈夫だと思うが、念のため手袋は外すな。まぁ……外の糸に対しての念のためも含めているが。とにかく気をつけろ、怪我をしないようにだ」 「わかった。で僕はこの糸をどうすればいいの」 「……本来ならば展開術式によって分析されていい代物じゃねぇが仕方ない。この糸は特殊な繊維で編み込まれている。外に張りめぐらせてある糸の特殊性は俺が使っているのとほぼ同種の成分だ。いざというときのために分析しておけば――切り札になるだろ」 「うん。じゃあ。僕は分析しているから、李真は外に気配を宜しくね」 「えぇ、わかっていますよ」 李真は口調を元に戻して精神を集中する。不穏な気配すぐに訪れた。奈月の耳にも聞こえるほど乱雑に玄関の扉があけ放たれたのだ。 李真は奈月が余計な気配をたてないように抱きしめる。 外の声が漏れて李真の耳に届く。 「ん? この家は留守か?」 人数は一人。けれど、外からの悲鳴が聞こえることを考えて、複数人がこの村にやってきているのだろう。正規の公的機関か、それとも犯罪組織か――後者の方が確率は高いが零ではない。視認で正体を確かめられない以上、答えを知ることは出来ないからだ。 「じゃあ次を探すか」 隠れているのを考慮して多少部屋を探ったようだが、地下への入り口には気がつかなかったようだ。李真はひとまずほっとした。 [*前] | [次#] TOP |