零の旋律 | ナノ

Prologue


 ランプの明かりに反射する水の流れ。規則的に刻まれる音。元あった形が徐々に無くなり細かくなっていく。
 刻まれた野菜はボールの中に纏められる。瑞々しい野菜の上へ調味料が適量いれてから、全体に味が染みわたるように練る。
 別のボールには小麦粉入っており、熱湯が注がれる。湯と粉が混じり合うように混ぜて、手で触れられる温度にまで下がったら、柔らかくなるまで捏ねる。一旦生地を寝かして待つ。

「あっ未継。ごま油出すの忘れてた。後で使うから出しといてー」
「了解」

 未継(みつぎ)と呼ばれたランプブラックの髪をハーフアップにした青年が、ごま油が入っている棚に手をかけると、不安定な仕舞い方をされていたのか不運なことに頭上からごま油が降ってきた。しかし、幸運なことに空中でごま油で停止する。

「依有。未継に頼んでどうするんですか、ごま油で床が惨事になるところですよ」

 背中一面がモコモコして料理に不向きな格好をした青年裏咲(りさき)が空中で停止したごま油を取り、依有(いある)へ抗議する。

「あははっごめーん。ついうっかり」

 ホワイトパール髪にコーラルレッドの色で花模様に染めてある青年依有がてへっと軽く舌を出してきたので、ごま油が危うく頭上を直撃しそうになった未継は思わず殴った。

「いたいっ! 包丁が未継に飛ぶよ!」
「意図的だな!」
「そーれ!」
「ぎゃー! 助けてー!」
「こら、未継に依有。包丁で遊ぶんじゃありません」
「はーい」
「ごめんなさーい」

 生地を寝かしている間に、出来る限りの後片付けをして、次の工程に進んだ時スムーズに料理出来るようにしておく。
 充分に生地を寝かしたあと、麺棒で生地を薄く延ばす。途中で麺棒が手からすっぽ抜けて未継の鼻に命中したこと以外はトラブルもなく進んだ。

「よーし、具を入れて皮に包んでいこう!」

 依有が意気込む。作った皮の八割は円を描いている。指を軽く水でぬらして皮と皮がくっつくようにしてから、具をはさみ包んで一般的に出回っている形を作っていく。
 依有の頭が花柄からは想像出来ないほど、餃子の形は均一だった。それと比べるとやや不ぞろいに餃子を一個一個作っていくのは未継だ。その二人は、八割の皮を使って次々と餃子を作っていく。
 残り二割の皮は円を描いていなかった。何の形をしているのか推測がしくいほどだ。それはともすれば麺棒で延ばすのに失敗したのではないかと疑いたくもなるほどだが、意図的に作られたものだ。裏咲が、その皮を手に取り具をいれ包んでいくと――兎の耳がついた餃子が出来た。次には鳥をイメージした餃子が出来あがった。

「餃子くらい普通に作ればいいだろ」
「普通の餃子は依有や未継が作っているじゃないですか。折角ですから可愛くしようと思いまして」
「いや折角も何もお前の料理いっつも可愛いだろ」

 最終的に普通の餃子八割と、猫、兎、犬、鳥といった動物をイメージした餃子二割が出来た。
 油をしき餃子をフライパンに並べ火を通す。途中で油がはねて未継の顔に直撃しようとしたこと以外は問題なく進んだ。
 約四分間餃子が焼き上がるのを待ったら出来あがりだ。こんがりとした焼き具合、ジューシーな香りが漂ってくる。
 試食しようと未継が箸で掴んで食べたら、カリッとした歯ごたえに、肉汁が口の中を満たす味わいは美味しかった。代償として舌を火傷したが、気にならないほどに美味だった。

「やっぱ依有が加わると俺が作った料理も美味しくなるな」
「未継一人で料理させると危険だからねー」
「依有だけを褒めてないで、協力した私のことも褒めなさいな」
「裏咲は手伝ったっていうより自分で好きに兎作った印象しかなかったもんで」
「次、ごま油が落下してきても、助けてあげませんからね」
「ごめんなさい」
「さて、お皿に並べようか!」

 会話に一区切りついたところで、依有が率先して皿を人数分並べる。皿の縁には桜の柄がある。
 本日は出払っている仲間が多いので、用意する六人分だった。
 茶碗にご飯を、お椀に豆腐の味噌汁をよそう。小皿を用意して大皿には餃子を並べる。おかずとして依有が作った野菜炒めも加わる。香ばしさに誘われて、仲間が集まり、全員が着席をする。

「おっ今日はお裁縫セットの料理か」

 お裁縫セットとは、未継、依有、裏咲の三人を総称した言い方だ。

「未継だけじゃ何が起こるかわからないからねー」
「おい、依有。酷いぞ」
「いやだって事実だしー」

 未継に抗議されたが、事実だといって依有は聞く耳を持たない。未継は何時ものことだと思考を切り替える。此処でお喋りをしているくらいならば、早く餃子を食べたい。

「よし、頂きます」
「頂きます」

 本日の料理当番である未継の言葉に続いて皆で頂きますと両手を合わせてから夕飯を食べた。
 正式名称ザイン――通称類とも組織におけるいつもの光景だった。


 癖のあるネイビーブルーの髪を持つ人物が餃子を咀嚼してから

「そうだ。裏切り者の件だが――」

 話題を提示した。


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