零の旋律 | ナノ

We enjoyed the holiday


 休日の買い物を謳歌した彼らは探し求めているものには出会えずとも両手に紙袋をぶら下げる掘り出し物とは出会えた。
 組織へ戻って部屋で休憩しようと思っていると、前方からツインドリルの髪型をしたお嬢様風な外見、それに違わぬ口調で喋る組織の仲間である都音がやってきた。

「一生戻ってこなくても良かったですのに、何を買ってきたのです?」
「帰り怱々辛辣だなぁ……。ちょっと鋏を色々と新調してきたんだ」

 未継はそう言って紙袋の中から丁寧に包装された袋を一つ取り出す。
 都音は受け取ってリボンをひも解いてみると、中には用途不明と思えるほど大量に鋏が入っていた。

「どれほど買ってきたのですか」
「買い占めてきた。いい鋏だったから、少し手を加えて武器にしようと思ってさ」

 日常生活で使うような鋏より少々重量があり、アンティークの飾りを彷彿させるような装飾が凝った黄土色の鋏は切れ味はともかく見た目はよく、武器にしたらお洒落だろうなと都音は思った。

「確かにお洒落ですわね。わたくしも明日出かけるので、武器の補充でもしましょうかしら。お前様も偶には役に立つのですわね」
「偶にはって酷くない?」
「この間、油たっぷりのフライパンをひっくり返そうとしてあわや大惨事にするところだったおっちょこちょいの間抜けは何処のどなたでしたっけ」
「うっ……」

 未継は痛いところを疲れて苦笑する。

「で、依有と裏咲は何を買ったのです?」
「随分と人の買い物に興味津津ですね」

 普段ならば関わりたくないとばかりに興味を持たないのに、と裏咲は内心不思議に思っていた。

「当たり前ですわ。お前様たちと同じ買い物をしないように細心の注意を払うために、何を買ったのか調査しているのですわ」
「随分と酷い理由ですね。まぁいいですけど。私はぬいぐるみを作る材料ですよ。そろそろ無くなってきていたので」

 紙袋を広げると、綿や布、針や刺しゅう糸等が隙間なく紙袋の中を埋め尽くしていた。
是が野郎の趣味なのかと、都音は何時も思っている。しかし、可愛いものが好きな都音としては、裏咲の下手な既製品よりもずっと愛らしく出来栄えのいいぬいぐるみは好きだった。だからこそ、出来あがった頃合いを見計らって盗む算段を今からするのだった。

「僕はね、料理の本を数冊買ってきたんだ。新しいバリエーションを増やそうかと思って」

 依有の紙袋の中は表紙に描かれた美味しそうな料理の数々が、紙袋を動かす度に見え隠れして食欲をそそる本ばかりだった。

「お前様は何故そんなにも料理だけは上手なのか、理解に苦しみますわ。ほんとうに」
「そりゃ、僕が恋人になる人のために色々と作ってあげたいからじゃないか!」
「恋人をとっかえひっかえするお前様には本当に理解に苦しみますわ。未継の爪の垢でも煎じて飲めば少しは恋愛など現をぬかすことがなくなるのかしら?」

 滑らかな指先を頬に当てながら都音は思案する。

「おい。俺が恋愛に縁がないみたいな言い方止めろ」
「あら失礼。でも未継はいつも振られてばかりじゃないですの」
「ぐぬ」
「でも、馬鹿兄貴よりはいいよ」

 お裁縫セットと都音の会話へ新たに少女が加わった。小柄な体型は、十六という実年齢より幼く見える。ファーのついたネコミミのような形をしたフードを被り、組織の服装を改造した服はロングコート上になっており、前はファスナーが外れていてすらりとした足が見える。パールホワイトの髪に、マリーゴールドの瞳は依有と同じ色をしていた。

「有斗。おかえり」

 仕事を終えてきた仲間に対して未継はねぎらいの言葉をかける。

「ありがとう……」

 依有は有斗の頭を撫でようとしたが素早い動作で逃げられる。猫のようにすばしっこいと笑う。

「酷い。おにーちゃんが折角頭を撫でてあげようと思ったのに」
「兄貴に撫でられたくなんて、僕はない」

 依有と有斗は、組織ザインにおいて珍しい血の繋がった兄妹だった。
 但し、有斗は恋人を作っては殺してを繰り返す兄の事を心底嫌っている。
 頭を撫でられた日には、服を焼却処分して新品に袖を通すことだろう。

「そうですわ。依有菌が有斗に移ったらどうするつもりですの?」

 元々、有斗と同じ理由で依有を嫌っている都音が、彼女の味方をする。
 都音と有斗は同室でお裁縫セットのように一緒に行動をすることが多いのだが、今回は有斗単独で仕事をしていた。

「そうですね。依有菌は除菌が大変ですし、移る前に都音と一緒にお風呂でも入ってきたらどうですか?」
「…………」

 裏咲が空気を和らげようと話しかけるが、有斗はそっぽ向いて返事をしない。

「裏咲ともお話したくないってさー」

 依有が笑いながら、裏咲の肩を叩くともふもふとした肌触りが心地よかったので面白くなり何度も叩くのを繰り返す。やがて鬱陶しいと裏咲の手が依有の手を振り払う。

「随分と私も嫌われたもので」
「……未継が、ましなだけ」
「そうですわね。お前様方では未継が一番まともですものね。じゃあわたくしと有斗は裏咲の言葉通り離れますわ。いきましょう、有斗」
「うん」

 都音が手を差し伸ばしたので、有斗が手を握り返して、お裁縫セットを背に向け歩き出した。
 都音と有斗の姿が見えなくなったので、彼らも部屋へ戻ろうとしたら背後から足音が聞こえる。誰だろうと振りかえると、お裁縫セットの上司である――未継曰く人格破滅者の――架秦がやってきた。

「お、丁度いい所にいた。明日仕事だから宜しく」

 それだけ告げると、そのまま彼らの前を素通りしていく。
 その腰には作りたてだろう折り紙が千羽鶴となってぶら下がっていた。


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