零の旋律 | ナノ

I like. Of you ...


類とも組織で依有は料理を作る。ルンルンと鼻歌が聞こえてきそうで未継は不気味だと眉を顰めた。
未継が目玉観賞をしていると脳内に浮かぶのは瞳の色合いが上下で異なる李真と呼ばれていた青年だ。あの両目を刳り抜いてコレクションに加えたい。

「あぁ、あの瞳欲しかったなぁ」
「駄目だよー。あの子は僕の恋人にするのー!」

依有がフライパンを巧みに操り、米を焼きながら抗議する。

「お前は三日で殺してしまうだろ、だったら俺が永遠に愛でる!」
「僕の本当に好きな人間かもしれないんだよ! あの子が!」
「安心しろ。そんな可能性は蟻が空を飛ぶくらいない」
「酷っ! でも駄目だよ。あの子は僕の恋人!」
「お前めっちゃ振られていただろ! 聞こえていたぞ! 俺はまだ振られてない!」
「はいはい。不毛な争いは止めてください二人」

依有と未継の一方通行な恋人奪いあいに終止符を打ったのは、兎のぬいぐるみを作成中の裏咲だった。

「え!? まさか裏咲もあの子欲しいの!? 上げないよ!」
「私に同性愛の趣味は有りませんし、目玉が好きなわけでもありませんからいりませんよ」
「なーんだ詰まんない」
「詰まらないって酷いですね。あぁでも……」
「何!? 新たなる趣味を発見したの?」
「いえ、別に彼への興味はないのですが、ただ……どこかで見たことがあるような気がするんですよね、思いだせないので記憶違いかもしれませんが」

裏咲はそう言いながらぬいぐるみを作る手を休めない。着々と形になっていき耳が垂れさがる。

「え、何処で見たの? そこいったら僕が会えるかもしれないじゃん!」
「裏咲教えろ。目玉を刳り抜きたい!」
「覚えていたら教えても良かったのですが、わからないので無理ですね」
「えー」
「えー」

未継と依有が意気投合したように不満を漏らす。しかし、裏咲は見覚えがあるような気がする程度であり、何処で会ったかと問われても全くわからないのだ。
依有と未継が、一方的な愛を叫びながらも恒衛がいた村に行こうとしないのは単純に、もうお目当ての彼がこの場にいないと直感しているからだ。
そうでなければ、ただの馬鹿であってあの時に未継や依有のものになっていたはずだ。

「それはそうと依有。お腹すきましたよ、さっさと作ってください」
「はーい」

依有は中断していた料理を再開する。
程なくして出来た料理を、類とも組織に現在いる面子で食する。

「非常に腹立たしいことですけれど、やっぱりお前様の料理が一番美味しいですわね」

丁寧な口調で黙々と箸を進めるのは、少女だ。グレープの髪をツインテールにしていて、頭の左上には小さな王冠をつけている。類とも組織の衣装を改造しお嬢様のような雰囲気を身にまとっていた。

「褒められているんだか、貶されているんだかわからないよ、都音」
「お前様の場合当然でしょう。日頃の行いですわ」

都音と呼ばれた少女のパールグレイな瞳がきりっと依有を睨む。依有はそれをにこやかな表情で受け流す。

「まぁ依有は仕方ないな」

お裁縫セットの上司である架秦も同意を示す。
人間が大嫌いな依有は好きな人間を見つけるために類とも組織に所属している。そして好きな人間を見つけ出すために老若男女問わず人間と付き合い、好きになれなかったという理由で数多殺しているのだ。依有が付き合ったことのある人間=殺した人間の数だ。
人間が大好きでたまらない架秦とは逆の存在ともいえる。

「依有だし」
「依有ですし」
「あぁもう! 未継や裏咲までも同意し始める! もう料理作ってあげないよ!」
「料理当番制があるのですからそれは無理でしょう」

裏咲が冷静に返す。

「じゃあ、美味しい料理作ってあげないよ!」
「それは困りますね。では、その時は仕方ないので美味しい料理を作ってもらえる方法を考えましょうか」
「ナニソレコワイ」
「ふふふ」
「笑い声が怖いよ!」

依有がぶるりと身体を震わせる。

「そういや依有。お前この間まで付き合っていた子は殺したのか?」

架秦がふと、先日新しい彼女が出来たんだ―と依有が自慢していたことを思い出す。依有は恋人をとっかえひっかえに殺しているが、恋人が出来ている期間、別の人間と付き合うことはせずその期間だけは恋人に一途だ。
他の人間に告白することもないし、見向きもしない。だが、今日恒衛を裏切り者として始末しにいった村で出会った人物に付き合わないかと誘っていた。
即ちそれは殺したということに他ならない。

「うん、殺したよー。活発で喧嘩っ早い子で面白いかなーって思ったんだけど、好きになれなかったからね」
「ほんとお前酷いよな」

未継が呆れる。

「未だ恋人いない歴=年齢の未継には言われたくありませんよーだ」
「彼女っていっていたよな、前に。瞳は綺麗だったか?」
「瞳? 何色だったんだろうね、顔も名前ももう覚えていないよ」
「本当最低だな」
「好きな瞳の持ち主から容赦なく目玉を抉りだす人に言われたくありませんだー」

賑やかな食事風景はそれだけを見れば、普通の仲良い友達同士が集まったようにも見えるだろう。
けれど、彼らは類とも組織。
目的のために手段は選ばない。己が望んだものを手に入れるためにあらゆる手法を尽くす。
一度組織に所属すれば、望んだ物が手に入らない限り脱退することは許されない。
組織を抜けだそうとすれば、嘗ての同胞が追手として裏切り者を始末する――恒衛のように。


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