零の旋律 | ナノ

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「へぇ。俺の術を分解した時も思ったが、構築まで出来るとは恐れ入ったな。機会があったら裏咲とでも展開術式勝負してみたら面白いかもよ」

 未継の言葉に奈月は返答をしない――返答をする余裕がない。
 手にしたナイフで奈月は己の手首を切り裂いた。真っ赤な血飛沫があがると同時に、血液が刃の如く未継に襲い掛かる。

「――!? これは」

 未継の直感が、その血は触れてはいけないものだと告げる。未継は直感にしたがって結界を生み出し血液を弾き飛ばす。かつかつかつ、と液体とは思えない音が結界と衝突しあって聞こえる。

「こりゃ、血液というより刃だな、めんどくさそうな予感しかしない術だ」

 恒衛は未継の視線が完全に奈月へ向いたことを確認すると――未継たちの方へ走り出した。

「恒衛!?」

 裏咲が反応をするが、高みの見物をしていた裏咲や架秦では僅かに反応が遅れる。その隙を見逃さず、恒衛は未継の横を通り抜け、森へと隠れる。
 張り巡らされた裏咲の糸は、対象者を傷つけるものでも束縛するものでもない。
 誰かが逃げようとしたら、それを告げるためのものだ。糸に触れるのも構わず走る。

「しまっ!」

 未継がすぐさま攻撃に転じようとするが、それを防ぐように血の槍が未継をとり囲む。奈月の腕からは血が滴り続けている。
 あれに触れてはいけない。直感は脳内に伝えてきている以上結界を解除するわけにはいかない。

「逃がすか!」

 架秦が折り紙の椿を恒衛に向かって投げつける。無数の爆発音が轟く。木の葉が火を纏って空を舞う。恒衛は生きていればいいと捨て身だった。皮膚は爛れ、火傷を負う。痛みから血液が沸騰するようにあつい。痛い。痛い。それ以上動くなと脳内が警告を発している。それでも恒衛はひたすら走り続ける。
 この場から姿をくらますことが、恐らくは最善の策であると判断して。
 逃げれば――村人を虐殺したところで恒衛が唯一の生き残りとなり、生きている人間を残してしまうことになる。
 それを、人間大好きだと豪語する架秦が許すはずもない。
 そうなれば、村人は全員助かるかもしれない。
 全員を殺してそのあと恒衛を殺すと言う絶対の自信があるからそちらをとるという可能性も勿論零ではない。
 だからこそ可能性でしかない賭けだったが、それ以外に村人を助ける方法はなかった。その可能性こそが一番村人を助けられる選択だった。

「――追うぞ!」

 恒衛の思惑通り、架秦はすぐさま逃げた恒衛を追跡することを選択する。

「えー! あの子は!?」

 依有が抗議の声を上げる。

「後回しだ」
「折角、僕が告白したのに!? 後回しとか嫌われちゃうじゃん! 告白は迅速にだよ!」
「安心しろ、あいつがお前に抱いている好感度は零だ」

 架秦が素早く切り捨てる。李真はその通りと頷いた。

「酷い!? あの子にまで頷かれたんだけど! むうーまぁ仕方ないか。じゃあ君! また今度僕と付き合おう!」
「誰がつきあうものですか! せめて性別が生まれ変わってから出直してきなさい!」

 律儀に返答しなくて良かったと、言葉を返してから李真は気付く。

「大丈夫! 僕は男女とも平等に愛せるから!」

 そして李真が望んだ答えではないのもが来る。李真は舌打ちをした。


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