零の旋律 | ナノ

Means of buying time


「ねぇ聞こえた? 僕と付き合わない?」

 李真が無視を決め込んでいると、依有が再度繰り返してくるので聞き間違いではないようだ。

「どういうことだ……」

 思わず丁寧な口調も忘れて、素で返してしまう。
 猫が剥がれたと思ったが元々被っているつもりもないのでいいかと李真は開き直る。

「どうもこうも、ほら! 君さ、瞳の色変わっているし髪型も何だか鳥みたいに跳ねていて面白いから! 僕が中々殺せないのも稀有だし! どうだろうか!」
「どうだろうか! じゃねぇよ! 誰が付き合うか」
「しかも何だか性格悪そうだし! いいじゃん! 面白さ倍増でしょ!」
「よくありません!」
「えーなんでさ! ねぇ付き合おうよ、僕なら君を最低でも三日間は幸せにしてあげるよ!」
「…………」

 最低でも三日間ってどいうことだよと李真は口に出しそうになったのだが、面倒なので黙った。

「ちょっと無視しないでよ」

 依有が抗議をしてくるが、構わず李真は攻撃を繰り出す。しかし依有は紙一重で交わしてしまう。
 李真の苛立ちはひたすら募るばかりだった。


 鋏が乱舞するのを恒衛は撓る鞭で弾き飛ばす。鋏が地面に突き刺さると同時に付加された魔術の渦が襲撃してくる。軽やかな動作で恒衛は交わすが既に無数の傷を負っていた。
 未継に殺されるのも時間の問題だ。額から汗が流れる。

「……奈月ちゃん。本当に悪いんだけど」
「何?」
「――少し、時間稼ぎをしてもらえると嬉しい」
「どういうこと?」

 奈月が怪訝そうに隣にいる恒衛を見上げる。恒衛の表情はどこか覚悟にみちていた。

「一体何をするつもりなのさ」
「君たちが生き残れる為の手段さ」

 恒衛が奈月の頭に触れる。

「だから、ごめん。君にこんなことをお願いしてしまって」
「……わかった」

 少しで良かった。僅かな時間でも未継が恒衛を見る視線を外して貰えればそれで良かった。
 色々な作戦を未継と刃を交えながら考えた。
 けれど、どの作戦も成功するとは思えなかった。その中で尤も村人が助かる可能性の高い作戦は恒衛が考える限り一つだけだった。
 ならばそれを実行するしかこの状況を打破することは出来ない。
 奈月は未継を見据える。純粋な戦闘能力で言えば確実に勝ち目はない。得意とする展開術式は戦闘には不向きだ。分析して分解することも、そのさらに上の構成をすることも可能だが、構成に関しては派手な構成をしようと思えば、時間がかかる。その間を悠長に未継が待っていてくれるはずもない。ならば奈月が取れる行動は一つだけだ。
 武器は所持していない奈月は、掌の周囲に展開術式による魔法陣を構成する。そして馴染み深いナイフを一つ生み出した。
 未継が目を見開く。視線はその時恒衛から離れていた。
 だが、まだだもっと視線を外してほしい、恒衛は周囲に神経を研ぎ澄ます。


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