零の旋律 | ナノ

Sudden confession


 李真はどうすればこの状況を打破できるか考えていた。
 架秦は全員殺すという判断をしているが、それは全員殺せるから全員殺すのだと李真は類とも組織に関する知識を総動員する。

 ――人間大すきの人格破綻者は、大好きが故に選べない。故に、全員が死ぬか全員生きるかの極論しか選択できない人物だったはず。

 李真は依有の猛攻を交わしながら思案する。依有の瞳は爛々と輝いていて、それが頭を花模様にしているよりも不気味だった。

 ――ならば

 李真はちらりと恒衛を見る。奈月が恒衛の背後で彼の袖を掴んでいた。足手まといのようで足手まといではない行動をしている。

「何、よそ見ているのー!」

 依有が針を飛ばしてくる。それが李真の頬をかすめた。血が流れる。舌で血に触れると鉄分の味がした。

「いえ、何も」

 李真が戦闘中に不釣り合いな笑顔で態と返答する。

 ――恒衛をいっそ殺してしまうか。そうすれば、類ともが恒衛を殺すことは出来なくなる。問題は、俺が殺したところで架秦が全員を殺そうとすることだ。そして、今この場で戦っている程度ならば問題はないが恒衛を殺したとなれば、此処では生活が出来ない。

 最初、類ともが襲撃した時この村の人間を李真は見捨てようと思った。事実お裁縫セットに見つからなければ見捨てていた。けれど見つかってしまった以上は別だ。
 居住を転々とするよりも澄み続けられるならば一か所に根付きたい。
 此処は田舎で一目につかない。李真の正体が露呈する危険は少ない。だからこそ恒衛も李真と同様の理由でこの村を選んだのだろう。

 ――あぁもうめんどくさい。

 いっそのこと口封じに全員殺してしまうかとさえ思うが、それをするには高確率で本来の武器である糸を使わなければならない。そうすれば何れリアト・ヘイゼルが生きていることがバレるだろう。隠ぺいしようとしてもしきれない可能性がある。そうなれば自分を生かそうとしてくれた人たちに被害及ぶかもしれない。何より、折角前を向いて一緒に歩くと約束した奈月を見捨てることになる。其れは出来ない。
糸は使わない。
 使うとしてもそれは、どうしようもない時だけだと李真は決意している。

 ――あぁ、本当にめんどくさい。

 妙案が浮かばない。路地裏に迷い込んでしまったようだ。
 このまま拮抗した状況が長く続くわけが――ないのだから。
 そう思った時、頭を花柄に染めた依有が、ふと攻撃の手を辞めた。

「ねぇ! そうだ、君。僕と付き合わない!?」

 依有が満面の笑みを浮かべて言い放った。その頭が花柄でなければ無垢な笑顔だったのだろうが、花柄のせいで邪悪な笑みにしか見えない。
 ましてや――依有は何処からどう見ても男で、李真もまた何処からどう見ても男。
 李真は半目になる。最初はこの場で言うことではないがそれはこの際置いておいて、言う相手を間違えたのかと思ったのだが、何処からどう見ても依有は李真をさして言っていた。

 ――やっぱ全員殺すか。


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