零の旋律 | ナノ

avoidance


 恒衛は舌打ちしながら即興で魔術防御を展開するが、瞬時にひびがはいり砕け散る。
勢いを殺せなかった水流が襲いかかってくる。

「ちっ――」

 濁流にのまれることを恒衛が覚悟した時、奈月が動いた。恒衛の隣に並び展開術式における魔法陣を展開する。瞬時に分析されしそれは、水流が奈月に到達する寸前分析が終わり――分解された。水が一滴も存在しなくなった空間がそこには広がるだけだ。

「はぁ? 展開術式で分解させられただと」

 未継が眉を顰める。展開術式は物質の分析を主とした術式だと捉えられがちだが、その本質は分析分解構成にある。
 分析が一般的に広く知れ渡っているのは、展開術式における難易度が比較的簡単であり、また物質を分析することに関して他の術よりも優れているからだ。
 展開術式は主に魔術や輝印術と並行して扱われたり、それらの補佐として扱われることが多く、それ単体を主とするものは少ない。故に、分析は出来ても分解構成は出来ない者が多い。
 だが、この眼帯をしたローズレッドの人物は瞬時に分析し分解を実行した。
 その腕前の実力は

「――裏咲と勝負出来るか」

 未継は呟く。展開術式は未継もどちらかといえば不得意だ。治癒術は才覚がなくて習得出来なかったが、他の術に関しては一通り扱える。その中で一番扱いに熟知していないのがどれかと尋ねられれば、間違いなく展開術式と上げる。
 そして、組織内で展開術式に対して尤も知識と実力があるのは未だ傍観の立場に徹している裏咲だ。


 恒衛を捕まえて全員殺す。恒衛を捉えた時点で仕事は殆ど終わっているようなものだった。それが予想外の出来ごとがおきて未だに裏切り者の始末は終わらず決着がついていない。
 裏咲は上司である架秦へ声をかける。

「どうするんです?」
「どうするも何も、全員殺すだろう」

 そういって架秦がとりだしたのは和紙で作られた色とりどりのクレマチスだった。

「さて、殺すか」

 架秦がそれらを振りまくよりも早く、裏咲がやんわりと架秦の手の上に手を重ねて止める。

「今貴方がやったら未継と依有も巻き込まれますよ。依有はともかく、未継の幸運度では回避出来ません。未継や依有が負けるとも思えませんし、少し様子身をしてからでもいいのでは? この村に援軍が来る気配なんて毛頭ないんですから。誰も此処へは近寄ってこられません」
「そうだな。万が一援軍が来たところで俺たちが知らぬずに辿りつけることは不可能だしな」
「えぇ。私が見張っていますから」

 にっこりと裏咲が断言する。

「じゃあ様子見をするか」

 あっさりと頷いた架秦はクレマチスの折り紙を懐へ仕舞う。一見すると鮮やかな折り紙だがその実態は架秦の魔術が付加されており、自在に爆発させることが出来る危険な代物だ。
 未継、依有、裏咲の三人を御裁縫セットと周囲は呼ぶ。そしてその上司である架秦は人間大すきな危険人物だった。人間が大好きであるが故に極端な性格をしているのだ。
人間が大好きだから、全員殺すか全員生かすかの二択しかない――とはいえ、類とも組織内の仲間は例外として扱ってくれるので二択の範囲外に存在する。
 架秦のことをぶっ飛んだ性格の危険人物だと裏咲は認識しているが、架秦と付き合いの長い仲間内の話だと昔は今よりもさらに危険な性格をしていたらしい。それを聞いた時は、丸くなって良かったと裏咲は思った。
 このまま架秦の攻撃がさく裂すれば依有はともかく未継が死んでしまう。未継の実力が弱いわけではない。ただ単に未継の運が悪いだけだ。だから未継が運よく生還出来るとは到底裏咲には思えないのだ。未継本人は運が悪いのではなく、裏咲に運を吸い取られていると叫んではいるが裏咲はそれを認めていない。


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