零の旋律 | ナノ

A king's commandY


「まさか、俺たちを襲ってきた少女……元実験体も、『異能』による異能者への干渉が行われた結果だと!?」
『そういうことだよ、ウィクトル。異能による異能者への干渉によって、異能者は操られるか、意識混濁、重力に押し付けられたかのように身体が上手く動かせなくなる、など様々な症例が現れる。症状は個体差といったところかな』
「そんなことが」

 出来るのか、とウィクトルは続けたかったが言葉が出ない。言語の大半を失ってしまったかのように感じられる。『異能による異能者への干渉』それが出来る程の高位の異能を有する人物がいるとすればそれは『言霊』の異能を有する絶対の王ことレガリアくらいなものだろう。だが、レガリアが犯人ではないことは確証が持てる。レガリアならばそのような手段を取るまでもない。『言霊』で全てを支配してしまえばいいだけなのだ。
 そこで、ウィクトルは嘗てレガリアの言葉を思い出す。

「まっ……まさか、原初の異能とやらを有する残り二人か?」
『違うよ。そもそも、私は過去の話だとあの時言ったはずだ。即ち、原初の異能を有していた残り二人は既にこの世に生きてはいない。生きている人間は私だけだ』
「なら――誰が。あんたを除いて、次点につく異能は『結晶』のクロア=レディットだろう? 彼女は既に死んでいるし、結晶では異能に干渉が出来ない」

 さらに次点で可能性の未来のフォルトゥーナだが、彼女もまた異能に干渉する異能ではない。
 いや、とウィクトルが仮説をたてる。

「まてよ……ひょっとしてそれより下の異能者であっても、さらに下の異能者ならば干渉が出来ると言うことか? だから、あんたは影響を受けていない」
『いいや、違う』

 だが、ウィクトルの仮説をレガリアは一蹴する。
 そもそもウィクトルの仮説にはフォルトゥーナが倒れた理由の説明がつかない時点で、仮説としては破綻している。

『さて、ウィクトルと棟月に問題だ。そもそも原初の異能にしろそうだ、何故『異能』は存在する?』
「え?」
「どういうことですか」
『原初の異能は何故三種類だけだった? 実験体における異能は原初の異能を用いて腑わけされたレプリカだ。故に、大本は三種類だけ――それは何故だ』

 何故、と問われれば答えなど出てこない。

「最初から三種類しかなかったからということじゃないのか?」

 ウィクトルがそう返す。最初から三種類だったから、原初の異能として名づけられた、と。

『ならば、原初の異能はどうして私たちが手に入れた?』
「そんなの知るわけないだろう」

 咄嗟に突き放すような言い方になったのはウィクトルからすれば無理からぬことだった――此処から先はきっと耳をふさぎたくなるよう事実が告げられると予感がしたから。拒絶をしたいが、けれど真実から逃避はしたくない。
 結晶は氷ではない故に冷気は放っていないはずなのに、この場が酷く寒い気がして両腕をさする。


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