零の旋律 | ナノ

A king's commandX


「――ァア」

 最後に現れた少女の瞳が、僅かに色を発していることに棟月は気がつく。無数に襲ってくる蔓を一刀両断する。力を亡くした蔓が地面に転がる。

「……何が目的ですか」

 最後に現れた少女の手はマリオネットを操るかのように動いている。
 だが、僅かに少女の意思が残っているだけで、感情を全て抑え込められているような違和感が漂う。
 少女の手がマリオネットと化した少女たちを操っている元凶ならば、その元凶を倒せば本来解決する出来ごとだが、その少女さえもまた何者かに操られているとしか思えなかった。
 棟月の問いに答えはない。
 ただ、かすれた少女の声から

「こ……ろ、し――て」

 懇願が聞こえた。それ以降、壊れたように殺してと、かすれた声で悲鳴を上げ続ける少女。そして襲いかかってくるだけのマリオネットと化した少女たち。
 棟月は会話をすることが無理だと判断し、少女の一人の心臓を貫く。抜き去った血の量は少なく少女の矮躯さを物語っていた。
 棟月が少女を殺したのを見てウィクトルも少女を殺す。肉を感じられない感触に、ウィクトルは眉を顰める。今まで罪悪感すら抱かなかった人殺しに――罪悪感を僅かながらウィクトルは抱いた。
 年端もいかないだろう少女たち、果たして骨と皮に等しい少女たちに未来への希望はあったのだろうか。
 考えた所で、ただの偽善だ。ウィクトルは思考を打ち破り、少女たちを殺す。
 程なくして九人が死体と化した。マリオネットを操る少女は操るマリオネットがなくなり無防備。もう操れないのに、ただ機械作業の如く手を動かし続ける。
 棟月の槍が心臓を貫く。

「お……わ、れ……るん、だ」

 死ぬ直前、最後に少女が言葉を残した。


 少女の無残な亡骸のあるこの場所で、棟月とウィクトルは立ち尽くす。

「おい、棟月。一体何がどうなっているんだよ」
「さぁ……俺にもわからないですよ。ただ、レガリア様はこの異変を察知していんじゃないだろうか」
「……だろうな。じゃなきゃ、タイミングよく棟月は現れない」

 その時、それこそタイミングを見計らったかのように、無線が音を鳴らした。棟月がすぐさまボタンを押す。

『――棟月』
「……何かありましたか、レガリア様」

 僅かな間を開けた絶対の王の声が普段と僅かに違うようで、棟月は尋ねる。

『順をおって説明する。その場にウィクトルはいるか?』

 だが、棟月の疑問に絶対の王は答えない。

「えぇ、います」
『なら、ウィクトルと棟月。私がこれから話すことを聞いてほしい。構わないな?』

 最後の言葉はウィクトルに向けたものだ。

「あぁ」

 ウィクトルは罰が悪そうにしながらも同意する。
 何故、少女たちが襲ってきたのか、その謎も絶対の王と呼ばれるレガリアならば答えを持ち合わせているだろう。その疑問を解決したかった。そうでなければ胸にもやもやが残ったままになる。何より、自力で答えを導くよりもレガリアが話してくれるならその方が絶対に正解だ。下手な意地を張る必要性がないことはウィクトルが一番理解している。

『まず、フォルトゥーナが倒れた』
「フォルトゥーナが? 何故」
『未来変化の干渉を強く受けすぎた影響だろう。フォルトゥーナに関しては私がいるから問題はない。そして、お前たちがいる研究の塔における跡地では襲われたか? 異能者に』
「……えぇ」
『以前私はフォルトゥーナに「未来に望ましくない変化はあるか?」と問うた。返答は「いえ、ありません」だったのは記憶しているな? そして私が「僅かでも異変を感じ取った場合は私に知らせろ。もしも――何も変化がないのに異変が起きた場合も同様だ」と命令したことも』

 一言一句棟月は記憶している。

『未来に望ましくない変化があるか、と私が問うた時の返答が「いえ、ありません」の段階でフォルトゥーナの『可能性の未来』は、可能性が複数に連なっているからこそ――干渉を受けたのだろう。簡単にいえば、『異能による異能者への干渉』が行われた。此処までいえばわかるな』

 ウィクトルは話の大部分が理解出来なかったが、それでも最後『異能による異能者への干渉』の意味は理解出来た。そして背筋に悪寒が走る。


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