零の旋律 | ナノ

A king's commandW


「……研究の塔に置いて、近頃異変はありましたか?」

 研究の塔へ赴けそこで連絡をする、それが絶対の王から受けた命令だが未だ連絡はない。それは即ち、この場に現れたウィクトルに情報を求めても問題がないことだ。ウィクトルが現れることも絶対の王にとっては予想の範疇だからと棟月は判断した。

「異変? いやな……いや、違うな。此処最近研究の塔を餓鬼どもがうろつくようになっていた」
「……此処を根城にしていると」
「あぁ、根城にしているが、俺がきてから四カ月間そんなことはなかった。元々いたのかもしれないが、目立つような行動を取るものはいなかった。何せ――」
「成程。実験体の生き残り、というわけですか」
「そういうことだ」

 嘗て実験体でありながらも生きながらえた、元実験体のgUであるフォルトゥーナを例に出すまでもなく、何処かに実験体の生き残りがいたとしても不思議ではない。脱走した実験体クロア=レディットは同胞を手にかけることはしなかったのだから。
 そして、実験体であるが故に、一目につく所で生きていくことも出来ず、生活する知識もなく細々と研究の塔で息を顰めるかのように生きていたとしても不思議ではない。
 この劣悪であろう環境下で――二年以上も生き続けられているのは奇跡といっても過言ではないが、それほどまでに生へ執着していたということだろうと棟月は判断する。

「――!」

 刹那の差もなく同時に棟月とウィクトルは武器を構えた。感じ取ったのは明確な殺気。
 それが、ひたひたと近づいて来る。研究の塔内部からだ――。
 研究の塔から現れたのは、少女たちだった。ボロボロの布切れはもう何年も取り変えていないようにすら思えるほどに薄汚れている。所々が破れ去り、肉があるのか疑わしい程に細い身体のラインが露わになっている。
 虚な瞳はまるで、何かの操り人形ではないかと疑えるほどに、何も移していない。

「なんだ、これは実験体か?」
「恐らく。けれど、何かが」

 何かが違った。違和感。実験体であることは間違いないだろうが、そこに二年も生き続けた意志を感じられない。
 一斉に少女たちが襲いかかってきた。走れないだろうと思えるほどに細い脚が結晶の床を蹴り駆けだしてくる。掌から炎が生まれ棟月とウィクトルを焼き焦がさんと放たれる。
 蛇の如く蠢く炎を棟月とウィクトルは軽々と交わす。
 殺すか否か、棟月とウィクトルは視線を合わせて会話をする。まだ状況がわからない以上、下手に殺さない方がいい、それが瞬時に導き出された結論だ。
 少女の爪が突如巨大化する。鋭利な刃物と化した爪がウィクトルを切り裂こうと頭上から落下してくるが爪と爪の隙間に退避することで交わす。爪が床を傷つける。爪が元の長さへ戻ると再び、爪が一直線に伸び貫こうとする。ウィクトルは跳躍し伸びた爪とタイミングを合わせて爪の上に着地する。
 着地したウィクトルを支える力はなく爪が地面に落下する。落下した衝撃、支えきれなかった重さで、腕の筋肉がかい離し、さらに骨が折れたのだろう少女の腕は歪な形に変形したが、少女の表情は一切変わらなかった。

「どういうことだよ」

 ウィクトルの声が漏れる。痛みで声を上げても不思議ではない、その状況下において少女はまるで腕が折れたことに気がついていないようだった。
 さらに少女が一人増える。少女は合計で十人に上った。それら全てが折れそうなほどの矮躯。成長期にまともな食事を与えられなかったのか、成長を感じられない。


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