零の旋律 | ナノ

A king's commandU


 絶対の王は感情が理解できないが故に、感情を排して合理的なことを選択できる。
 その手に躊躇はない。瞳に曇りはない。心に動揺はない。
 ただ――実現するために動くだけ。
 そのための犠牲は必要であれば、はらう。
 その道に転がる屍の罪をも背負う。

 それが彼――レガリア

 誰に理解されなくとも彼は構わない。理解されたい、という感情を持ち合わせていないが故に、他人を理解することもまた出来ない。
 彼は1000人中501人か499人しか助けられないとする事態が起こるのならば、躊躇なく501人を掬う選択をする。
 感情が理解できない彼は、平然と尤も多くの人間が救える選択肢を選べるのだ。
 例え499人の中に知り合いがいても仲間がいても誰がいても501人を彼は救う道を選ぶ。一切の迷いなく。
 それは――酷く歪で残酷だ。
 感情を有する人間からすれば。
 だが、彼は躊躇なく選択できるというその“異常”さには気がつけない。
 理解出来ないから、理解しようと思っても、ついぞ彼は理解できないまま生き続ける。

 レガリアは玉座の両隣に彫刻の如く並ぶ棟月とフォルトゥーナに声をかける。途端にかしこまる二人に気楽にしていいよとは言わないし、気楽にしていてもかしこまれ、とは言わない。

「フォルトゥーナ。未来に望ましくない変化はあるか?」
「いえ、ありません」
「そうか――フォルトゥーナ、に棟月。お前らに宣言をしておこう『お前たちは何があっても私の部下だ』この宣言は保険のようなものだが、効力が零、というわけではないだろう」

 棟月とフォルトゥーナにはそれがどのような言霊としての意味を持つのか理解できないが、それでも構わなかった。
 理解する必要はないのだから。
 黒といえば、白さえも黒にするのがレガリアであり、絶対の王だ。
 故に、理解は不要。

「棟月、一つやってほしいことがある」
「何なりと」
「少しばかり結果を見てきてほしい。構わないな」
「勿論です」
「ならば、箱庭の街へ赴き、研究の塔があった跡地へ向かってくれ。詳しいことは現地につき次第連絡をくれ」
「はっ」

 棟月は頭を垂れ、槍を片手にその場から移動する。

「フォルトゥーナ、僅かでも異変を感じ取った場合は私に知らせろ。もしも――何も変化がないのに異変が起きた場合も同様だ」
「はっ」

 フォルトゥーナも棟月同様頭を垂れるが、前半の言葉はまだしも後半の意味が理解出来なかった。変化がないのに異変が起きた場合は――どういう意味だろうか、と。
 だが、レガリアがいうのであれば、異論を唱えることも疑問を言葉にすることもない。
 それが異常だということは外側からみれば明らかなのに内側に入ってしまえば異常は普通になる。
 だから、それが恐ろしくてウィクトルは異端審問官の組織を脱した。
 後々、ウィクトルが異端審問官の組織を脱退したと聞いた時その心境が全くフォルトゥーナには理解出来なかった。何を馬鹿なことをしているのだろう、と純粋な疑問すら抱いた。絶対の王がいれば――何も問題などない。絶対の王が命じる言葉に従っていればそれで全てが解決するのに、絶対の王のそばは居心地がいいのに自ら投げ捨てる心境など到底理解できない。
 そう思うほどに、異端審問官になって日が浅いフォルトゥーナはこの組織に染められていた。


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