A king's commandT 嘗て、世界を震撼させるはずだった石に触れた人間がいた。 嘗て、世界を満たすはずだった魔の石を壊す人間がいた。 そうして世界に異能は広まらなかった――。 『E:R A king's command』 「私には理解できないだけだ。他人の感情が――自分の感情すら希薄だからな」 「人間として欠陥であることは知っているよ」 「私は化け物だよ。家族も友人も私に近しい人間全てが私を化け物といったのだ。故に私は否定しない。他人の感情が理解出来ない欠陥品だからね。だが、私は別にそれを直したいと思ったことはないよ――」 異端審問官を統べる絶対の王。 彼は絶対的ではあったが、致命的なまでに他人の感情を理解出来なかった。 感情を理解できないが故に、心理学を学び、感情をある程度理解しようとしたが結局のところ理解できないまま現在に至った。 彼は他人の感情を理解できないが故に、その存在が高貴で人を超越した存在に映り、人が集まる。 崇高な存在を崇拝するかの如く。 けれど、他人の感情を理解できないからこそ、友人とは袂を分かつことになった。皮肉なことに――感情を理解できないが故に、友人と袂を分かつことになってもなお彼の感情が揺れることはなかった。 絶対の王は他人の感情を理解出来ないのと同様、自身の感情に対しても希薄だった。 感情が存在しないわけではない。ただただ希薄なだけ。 異端審問官を統べる絶対の王、その彼の容貌は少年然としている。 しかし、実年齢は百歳を超えていた。それは彼が有する原初の異能『言霊』によって時の流れから逸脱しているからだ。 そうまでして、寿命という理から逸脱したのは死を恐れたからではない。 ただ、彼が起こりうるだろうと『予知』していることを回避するため、最善の手段をとったに過ぎない。 「さて、百年余りの時が流れた――そろそろかな」 玉座に頬杖をつきながら、彼は不敵に微笑んだ。 [*前] | [次#] TOP |