零の旋律 | ナノ

A king's command[


「目的が変わってしまった?」
『そう。途中で、私の友人が死んでしまったからね。だから、後を継いだ人間の意志によって当初の目的から外れた』
「成程な。ところで、侵略者がきた際に『目的』を持ち、実行して対処をしようとしたのはわかるが、何故何故国家の総力をあげようとはしなかった? 異端審問官の数なんて高が知れている」
『その答えは御尤もだ。私の力を持てば国家の総力をあげて準備を整えることは可能だっただろう、けれど問題がいくつかある。一つ目は荒唐無稽な話を信じるか、二つ目は異能を有した私へ抱く心情の問題。それ以外にも大小様々な要因を検証した結果、秘密裏にことを勧めるのが一番効率的だと私は判断した。だから、このことを今まで私は誰にも話さなかった』
「かしこまりました。レガリア様がそういうのなら、俺に異論なんてありませんよ」
「そりゃ、お前は何時だって異論ないだろ」

 棟月の妄信っぷりは異端審問官の中でも群を抜いている。その彼がレガリアの言葉を否定するはずがないのだから。
 レガリアが語ったそれ以外の大小様々な要因を本来ならば曖昧にせず追及するべきなのだろう、とウィクトルは思いながらも――レガリアの判断が間違っていたとは思わないが故に、態々“正しい判断”をするに至った経緯を問いつめる理由はないと判断した。
 異端審問官として長年レガリアの存在を知っているからこそ、ウィクトルもまた一種の盲目的な判断によって正しいと疑わないのだ。例え、異端審問官を抜けた所でそれは変われなかった――本人が気づいていなくとも。

「で、レガリアは何が望みだ?」
『“ウィクトル”戻っておいで。いいや、戻ってこなくとも構わない。棟月と行動を共にして原因の“排除”にあたってほしい。勿論、お前たちが全てをこなすわけではないが』
「わかった」

 ウィクトルは即断した。異能者を操る未知なる異能。そして――異世界からの侵略者。荒唐無稽な話を信じた以上、選択肢はイエスしかなかった。
 現状を放って見なかったことにはしたくない。操られた少女たちの末路を見てしまった以上――殺害した以上、ウィクトルは動くと決めた。自分の戦闘能力は異能者と匹敵するほどだと自負しているが故に、未知なる異能者が敵でも恐れはなかった。

「俺にも勿論異論はありませんよ」

 嘗て、仲間だった相手が再び仲間として行動をすることに対して何の感情も抱いていない様子で、棟月が続ける。そうだろうな、とウィクトルは思う。棟月はレガリアの言葉であれば、嘗て殺し合った相手だろうが、嘗て殺した相手の遺族とだろうが、怨敵との共闘だろうが、何の感情を抱くこともなく行動を共に出来る。それが棟月の中で群を抜いている異常さ、だった。


『では、お前たち二人には――――してもらいたい』

 絶対の王は異端審問官と元異端審問官へ指令を出した。
 正しき指令を――言葉に乗せて。


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