Secret of the school 学園がハルモニアの襲撃を退いたもののその被害の大きさによって未だ混乱の最中、冬馬は教師フェルメを尋ねた。フェルメは目の下に隈を作っており、まともに休む暇がないことを示していた。 「フェルメ、一体学園には何があるんだ? ロストテクノロジーがあるのは知っているが」 反省文百五十枚はかかされたのだから忘れられない。 「このくっそ忙しい時に聞いてきますか? 少しは空気を読んだらどうですか。そもそも貴方たちだって治療をしてもらったとはいえ、暫くは休んでいないと駄目でしょう」 「戦闘でもしない限りは身体の方は大丈夫だよ。それと、フェルメ。空気を読んだから聞きに来たんだ」 冬馬の背後には、同様の疑惑を抱いている閖姫、佳弥、十夜、久遠が並んでいる。閖姫は奈月も誘ったが、まだ本調子じゃないから休んでいると言われた。李真は冬馬が誘ったが、真相に興味はないと一蹴された。 「……成程。そういう空気の読み方ですか。わかりました他言無用ですよ。ついてきて下さい」 冬馬が読んだ空気を理解したフェルメは、書類の束を机の上に一旦置いた。 十夜が以前発見した地下への入り口へたどり着くと、フェルメは既に魔術式の解除方法を知られていることを知っているため、堂々と解除して地下への扉を開く。 「アルシェイル学園は元々過去の遺産――ロストテクノロジーが豊富な遺跡だったんです。けれど、遺跡であることを隠蔽してこの地にアルシェンド王国は学園を建設した。アルシェンド王国のいざという時の要塞にして切り札の一つになるために、表向きは学園ということになっているんですよ。その為に、ロストテクノロジーや魔術品、古代魔術のためにスペルコードなどが地下遺跡内で豊富に揃えられているんです。全く持って地下への入り口を発見されたのは誤算ですよ」 階段を下りきり、フェルメが魔術で灯りをともす。入口よりさらに奥――前回十夜たちが足を踏み入れなかった場所だ――へ進むと、壁があり、そこに七色の回転する魔法陣があった。 「此処から先にさらにロストテクノロジーや、スペルコードなどの様々な旧時代の文明が眠っています」 「俺が解いていいのか?」 「解かないでください。私が解除式を知っていますから」 冬馬の楽しそうな笑みに、フェルメは態と咳をしてから、魔法陣に手を当てる。浮かび上がった紋様と魔法陣が重なり合うと、魔術式が解除され、扉が自動で開く。 「ちぇっ」 「今後も解かないで下さいね。これは内緒なんですから、本来学生に見せることなんてないのですよ」 「まぁだろうね。俺たちが初めて?」 「いえ……まぁ過去に一度や二度はあるんですけど」 「ふーん。って、おおっ!」 扉の先に――現れた光景に冬馬は感嘆の声を上げる。たまらず久遠と冬馬が走り出した。 フェルメの魔術によって照らされた地下は、眩いほど白く明るい場所だった。 神聖なる空間とはこのことを言うのか、と思うほどに白で統一され、柱が等間隔で並んでいる。柱一つ一つに模様が描かれており――それらが全てスペルコードであることは久遠と冬馬には一目でわかった。 「これは凄いな……こんなのがあれば、ドミヌスもハルモニアも欲しがるわけだよ」 久遠がため息をつく。 無数に並ぶロストテクノロジーの数々は、紛れもなく旧時代の文明の存在を現しており、不用意に触れられない神聖さを醸し出している。此処が嘗て、旧時代における重要な拠点としての役割を果たしていたのは紛れもないだろう。 「王家はこんなのを隠して学園を立てたのかよ。贅沢だなぁ……魔学士たちが見たら卒倒するだろうな」 「あはは、本当だね。しかし、僕も是は知らなかったよ」 女性だとばれたが未だ男装を続けている王族の少女が笑う。 此処までの遺産をアルシェイル学園に隠していた――否、此処までの遺跡を隠していたことが露呈したら、果たして魔学士たちは何と抗議するのだろうか、と佳弥は思うが、王家が秘密裏にしているのだ、自分が口外する必要はないし口外したいとも思っていない。隠しておいたことに対する憤りなど誰も感じていないのだから。 「にしても、このロストテクノロジーは……おい、久遠。ちょっと来いよ」 「あぁ、わかった。冬馬の方終わったら俺の方に来てもらっていいか?」 「勿論だ」 「ちょっと、そこの冬馬に久遠。あまり解析しないで下さいよ! これ秘密なんですからね!」 フェルメが注意するが、冬馬の久遠の耳には入っていない。魔術師としてロストテクノロジーやスペルコードに興味津津であった。 暫く冬馬と久遠が見なれない単語を言い続けるものだから、最初は面白そうに二人を眺めていた十夜だったが、暇になり周囲を眺める。 果たして今の時代が築かれる前の文明はどのような世界だったのか、興味がないわけではないがだからといってそれらを解き明かそうとする魔学士たちとは違い、十夜は明らかにしたいとは思っていない。 ロストテクノロジーは千年以上も前に失われた遺産にして、現文明を凌駕する技術が用いられていることは、発掘されたロストテクノロジーの力を知れば一目瞭然だ。 十夜は未知のものには興味があるし、財宝があると言われれば探しに行きたい気持ちはあるが、それを発見するまでは出来ても、そこから先に関する知識を持ち合わせていないし、それを勉強するくらいなら身体を動かしている方が楽しい。 「あー閖姫、後で手合わせしようぜ」 だから、気がついたらそんな言葉を呟いていた。 「いいな、そうしよう」 「君たちは、遺産より格闘が好きだねぇ」 「そういう佳弥は加わらないのかよ。お前だって知識あるんだから加われるだろ?」 「いや、僕は遠慮するよ。別段……冬馬や久遠程専門じゃないからね」 「そっか。よしっ」 十夜が今度こそ負けないぞ、と意気込んでいる傍らで、冬馬と久遠はロストテクノロジーに対しての解析をしていく。 「さて、そろそろ戻りますよ! 冬馬も久遠も此処まで!」 「えー」 「えー」 フェルメの言葉に抗議の声が二つ上がったが、無視する。 「貴方達魔学士を目指しているわけじゃないんですから、此処まででいいでしょう。これは本当の本当に秘密裏で学園長にすら内緒にしている私の独断なんですから、ばれたら反省文百五十枚じゃすみませんよ」 「秘密なのかよ」 「公認だと思っていたんだが」 冬馬と久遠が同時に驚く。 「そんな許可を取りにいくわけないじゃないですか。ですから、バレる前に戻りますよ、ほらほら」 フェルメに背中を押されて冬馬と久遠は渋々地下を後にした。 [*前] | [次#] TOP |