The girl became a boy テスト期間は終了し、季節は真夏の葉月へ移り変わる。 「久しぶりにカナリアに会いにいこうぜ!」 冬馬が閖姫を誘った。文月の時期は、勉強しないとは言えテスト期間があった。何より学園が襲撃されたため、日々が慌ただしくカナリアに会いに行くことが叶わなかった。 「そうだな、行こう。佳弥たちは誘うか?」 「いや、佳弥はいいよ」 また、畏まられるだけだしな、と内心で冬馬は付け足す。 「二人だけで、行こうぜ」 「わかった」 冬馬と閖姫は――冬馬に至っては魔術を堂々と使うようになったので、仮に魔術の仕掛けが施してあっても余裕で進めるが――いつも通り秘密の抜け道にはなんの仕掛けもなくスムーズにカナリアの実家へ遊びにいくことができた。 そこで――驚愕した。 尋ねる家を間違えたのかと冬馬は本気で疑った。 閖姫は幻覚を見ているのではないか、と頬をつねった。 夢じゃないんだから、と後で冬馬に笑われたが、閖姫からすれば家を間違えたと疑うのも同類だと言いたかった。 正答であり現実であるそこには――カナリアが立っていた。但し、見違えるように別人になっていた。 例えば、体重百キロある人間がダイエットに成功して体重四十キロになり、別人のように細くなっていたかのような衝撃が閖姫と冬馬に襲いかかっていたのだ。 何故ならば――カナリアが“少年”になっていた。 元々性別は男ではあるが、外見は少女だったカナリアが紛うことない少年になっていたのだ。 「お兄ちゃん! 会いに来てくれたんだね、嬉しい!」 いつものように飛びついてくる声はカナリアそのものなのに、目の前にいるのは少年だった。 「か、かかかっか、かなり……あ?」 何度も言うようだが、目の前にいるのは少年だった。 「そうだよ、どうしたの? お兄ちゃんたち固まって?」 「えーとなぁ、カナリア、その格好どうした?」 閖姫が恐る恐る尋ねる。もしかしたら尋ねてはいけない地雷だったんじゃないのかと思いながら。 「ん? だって皆こういう格好しているんでしょ?」 それは――学園際で、実は皆フリフリを着ていないという事実を知った少年からの言葉だった。 カナリアの足元まである長い髪は短くなっており、天然パーマなふわりとした短髪になっていた。カーマインからレモンイエローの瞳だけが相変わらず可愛らしい。フリルがふんだんにあった白の服装から、カジュアル系の恰好に変わっている。短パンに生足という姿が新鮮でにあっているのに、冬馬と閖姫は違和感しか覚えなかった――今までのカナリアの印象が強すぎて。街で声をかけられても知らない人だと無視しそうだなぁと二人は思う。 「あ、あぁ……まぁな」 冬馬が硬直から解けないまま口にしたから大分言葉に詰まっていた。 「もう、本当にお兄ちゃんたち今日はどうしたの。折角来てくれたんだから入口で固まってないで部屋においでよ」 「あぁ、わかった、行こう閖姫」 「あぁ」 足取りが何処かぎこちないままに閖姫と冬馬はカナリアの部屋に入って、またもや固まった。 白を中心とした可愛らしい部屋のつくりから、明るい少年風の部屋に移り変わっていた。 カナリアは嘗ての少女の姿から少年へ変わっていた。 性別が男である以上、此方の方が正しいのだろうが今までの姿に慣れ過ぎて違和感を拭えない冬馬と閖姫はカナリアに対して終始ぎこちなかった。 カナリアは最後までその理由を理解することはなかった―― カナリアが少年になっていたインパクトが強すぎて何をして遊んだか記憶おぼろげなまま、冬馬と閖姫は学園に戻った。 その後の葉月は後日少年である違和感をぬぐおうと覚悟してカナリアに会いに行ったり、季節外れではない花火を佳弥を含めてして盛り上がったり、皆でゲームをしたり、学園内を体験したりといつもの日常が過ぎ去って行った。 文月に学園が襲撃されたとは思えないほどに、日常だった。 [*前] | [次#] TOP |