零の旋律 | ナノ

Test


 アルシェンド王国に反旗を翻そうとしていた組織が襲撃してから、三週間後の皐月下旬。日常の風景を取り戻しアルシェイル学園の学生にはテストが迫っていた。
 テストが近いし勉強会をしよう! と十夜発端で、一人部屋で家具の少ない佳弥の部屋で勉強が行われることになった。
 そして一時間が経過した頃合い、十夜発端なのに十夜が開いた本の頁は一頁も進んでいなかった。

「あーきーた! 皆でやったら楽しいかな―なんて思ったけどやっぱそんなことはなかったか」

 机に伏して寝る体制をとった十夜の後頭部を軽く久遠が叩く。

「一時間でどうして一頁も進んでいないんだよ」
「いやぁ、やる気がなくてやってなかっただけだ」
「やれよ」
「いや、よくよく考えるまでもなく勉強なんて出来なくても、俺は実技試験で結果を示せるから別に問題ねぇし。なぁ閖姫」

 十夜は同じく余り頁が進んでいない閖姫に声をかける。

「まぁ確かに。俺も十夜ほどではないにしろ勉強は好きじゃないな……」
「ってかさ、此処で勉強しているの久遠くらいだろ」

 十夜の一言に久遠は言葉に詰まる。
 周りを見渡しても、奈月は佳弥のベッドで横になっているし、冬馬や佳弥は教科書のきょの字もない。李真は軽く見てはいるが真剣にやる、やる気というものが感じられなかった。
 参考書まで開いて勉強をしているのは久遠ただ一人だった。

「お前ら勉強しろよ!」
「私は日ごろ少しずつやっていますし、それにテストの結果は悪くても、その分実技を頑張れば問題ないので」

 久遠の叫びに李真が冷静に返す。

「はい、次。奈月は」
「展開術式が出来るから勉強なんてしなくていいもーん」
「はい、次。冬馬」
「勉強しなくても点数取れるから問題ない」
「はい、次。佳弥」
「冬馬と同じく」
「はぁ……十夜、お前なんで勉強会やろうとか言いだしたんだよ。普段はそんなこと言わないで、よし鍛錬するかとか言うくせに」
「何となくだ」

 こいつらもう駄目だ、と久遠は諦めた。


 そうして、久遠以外が全く頑張らない勉強会が幕を閉じて、テスト日を迎えた。
 術実技試験が初日に行われ、二日目は通常授業におけるテストが行われ、最終日に実技試験が行われる日程だ。
 そして、一週間後――テスト結果が一覧になり纏めて返却される。さらに、各科目における上位者は廊下に名前が張り出される。

「ナヅっちゃんは本当に展開術式が不動だなぁ……他は?」
「いつも通りだよ」

 展開術式においては、奈月が不動の一位を記録している。少なくとも冬馬が入学して以降奈月以外が一位を取ったことはない。他の科目奈月が冬馬に見せた奈月のテスト結果一覧は好成績とは言い難かった――特に魔術に関しては下から数えた方が早い点数をとっている。

「冬馬、お前さ……いくらなんでもいきなり真面目にやりすぎじゃね? 真面目にやっている人間に対して謝ってほしいもんだわ」

 閖姫が渇いた笑いをする。何故ならば――術実技試験における、魔術、生命術、輝印術は一位で、展開術式だけ上位成績に入る二十位中、十八番目の成績をたたきだしていた。但し治癒術は不得意で扱えないため除外されている。
 先日の学園襲撃事件以降、冬馬の術が使えないのは嘘だったことが発覚した。自ら露見させた以上、隠す必要はないと開き直って術を扱うようになっていた。

「いやぁ……元々使えたもんで」
「殴りたいよな、こいつの顔」

 久遠が顔を引き攣らせる。冬馬の成績はそれに加えて――各科目、例えば魔学史や、歴史、古代語、魔術詠唱、数式、様々な分野において、ほぼ上位を独占するという実力を発揮していた。

「実技試験と治癒術以外、全部お前の名前入るとかどういうことだよ、本当に恐れ入るわ」
「久遠だって俺と似たようなものだろう」

 冬馬はそう言って、久遠の名前が入っているものを見る。真面目に勉学に励んでいる久遠は成績がいい。各科目の大半は上位に入っているし、冬馬が扱えない治癒術に関しては二位だ。また魔術、輝印術、生命術に関しても冬馬には及ばないものの全体的に好成績で、魔術に関しては三位だ。

「俺はお前の劣化版にしか見えないよ。治癒術しかまともに勝ててないだろが」

 はぁとため息をつく。是でも自分は反乱組織のリーダーをやっている父親に英才教育を施されてきたため、あらゆる分野において精通しているし、実力があると自負もしているが、冬馬はその上をいくのだ。
 しかも普段勉強に関してはサボっているのにも関わらず――術実技に関しては、三週間前からやり始めてこの実力なのだから殴りたくなるのも当然の心境だった。

「久遠はあと弓術とかメイク技術が得意だろ」
「あー忘れてた」
「自分の得意分野忘れるなよ」
「いっつも皆が忘れているもんで本人も忘れたんだよ」
「おい」
「で、十夜や閖姫は相変わらずっと」
「だな」

 久遠が視線をずらすと、そこにはまた負けたと悔しがっている十夜の姿が見えた。
 閖姫と十夜は、実技試験以外では上位に名前を連ねることはないが、その分、実技試験における一位と二位は不動だった。その下、五位には李真、六位には佳弥が続く。

「で、佳弥は佳弥で頭いいし、お前ら幼馴染どうなっているんだよ、頭の構造。一旦分解させろよ」
「ははは」

 冬馬は笑ってごまかした。
 佳弥は術に関してそこまで得意ではないため、術実技試験において上位には名を連ねてはいないが、その代わり、実技において六位の実力をたたきだし、それだけではなく各科目においても冬馬同様に上位に名を連ねていた。複数の教科は冬馬の上をいっている。

「実質的には、もう科目試験は久遠、佳弥、冬馬が上位争いをしているようにしか見えませんよね」

 李真が苦笑した。

「俺は入れるな。冬馬と佳弥には勝てないって……、これテスト前に勉強する気なくなるよな」

 久遠の呟きに李真と奈月が同意した――奈月は別に勉強していないが。


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