零の旋律 | ナノ

Initium


 生まれてから、死ぬまで僕らは何をして生きてきたんだろう――

 Dependence×Syndrome

 ――僕らは閉じ込められた世界の枠の中でただ、もがき堕ちてゆく

「よっと、此処なら余程のことじゃない限りバレないぞ」
「全く、こんな抜け道良く発見したな。呆れるほどに感心するよ」

 闇夜に紛れて二人の青年が行動する。
 新月で月明かりさえ照らさない闇夜の中、彼らは暗所を自在に動き回る。
 時刻は深夜零時を僅かに上回った頃合い。懐中時計の秒針が一を告げている。
 辺りは静けさに包まれており、周辺に人の気配はない。深夜、だからではない。
 ただ彼らがいる場所が、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出す場所だったからだ。

「たまには息抜きもしたいだろ。それとも――校則違反は嫌いか?」
「まさかっ」
「だよな。規則は破るために存在しているんだから」
「流石。『暴君』だな」
「お褒めの言葉光栄です『覇王』」

 彼らは互いに顔を見合わせて屈託ない笑顔で笑った。

 暴君と呼ばれた彼が先導し、抜け道を通る。軽やかな身のこなしで進む姿は人目で運動神経が卓越していることがわかる。
 抜け道を通り、塀に開いた穴を通る。穴を抜けると、眼下に広がる光景は『外の世界』だ。
 内側に閉鎖され、そこだけで完結している『学園』から『外の世界』へ彼らは降り立った。
 周囲を警戒し、人がいないのを確認した彼らは都ルシェイへ向かった。
 煉瓦を主体に作られた建設物が街に立ち並ぶ。等間隔に並ぶ建物、一定間隔ごとに同じ植物が咲く風景は、意図的に設計された街の雰囲気を醸し出している。ほの明るい街灯が宙を踊っている。

「学園の中とはやっぱり光景が違うな。是からどうするんだ? 冬馬(とうま)」

 覇王と呼ばれた青年は、隣にならぶ暴君――冬馬へ呼びかける。

「勿論、遊ぶに決まっているだろ。何のために無断で外出したんだよ閖姫(ゆりき)」

 覇王――閖姫はマーリの髪が肩につく程度の長さがあり、後で一つに纏められている。ブロンズレッドの瞳が好奇心旺盛に周囲を見回す。杜若色のワイシャツと、黒のズボンというラフな格好は動きやすさを重視している。年は十八、身長は隣に並ぶ冬馬より僅かに低い百七十六pだ。

「そりゃそうだ。で、冬馬は何か希望でもあるか?」

 暴君――冬馬は、天然のパーマがかかったペールブラウンの髪にラピスラズリーの瞳。睫毛は長く何処か中性的な印象を与えるしかし、女性には間違われないだろう端正な顔立ちは、ひじょうに見目麗しく人通りの多い昼間であったならば、数多の視線をくぎ付けにしただろう。白のシャツは首とも、袖口や裾にフリルがついている。黒のズボンは閖姫と同じタイプのものだ。
 “遊ぶ”とは言ったものの、何をどう遊ぶか具体的な目的があって学園の外に出たわけではない。
 ただの息抜き、だ。囲われた世界にずっとい続けるのは自分で選んだこととは言え、少々息がしづらい。

「とりあえず、街を散策でもするか」
「はいはい」

 先頭を歩き始めた冬馬に閖姫は苦笑しながら続いた。


 何気ない出来ごとが、壮大な事件に巻き込まれる可能性は、限りなく低くても零ではない。
 ましてや、もとよりもつ定めが、過去の出来ごとが、生が、それらを引き寄せるのであれば、可能性は格段と跳ねあがる。
 そうして、運命の歯車を動かす。

『何れ壊れる定めだったんだよ。何時までも――変わらない日々はないのだから』

 偶然ではなく、起こりうる必然として。


- 1 -


[*前] | [次#]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -