零の旋律 | ナノ

Ambiguous purpose


「何故、学園に謎の人物が……おい、佳弥」

 冬馬は一つの可能性を思い立ち佳弥に話しかける。主語がなくても佳弥には冬馬がなにを言いたいのか理解できたので、首を横に振る。もしかして、佳弥を狙ってきたのじゃないか――その可能性を佳弥は即座に否定したのだ。
 佳弥がこの学園にいることを現在知っているのは、王と王妃である両親、そして第一王位継承者である佳弥の兄、それにこの間出会ったフェルティース家の当主だけだ。
 学園際を堂々とは廻っていたが佳弥の正体が露見したような様子はない――零とは言えないが限りなく低いだろう。

「といっても零じゃないとは思うけどね」

 だから、首を横に振った後佳弥は付け足す。

「……まぁな」
「けれど、敵に回してどうしようというのだい?」

 密着しながら移動しているため、小声でも隣の人間に聞こえてしまう可能性はある。
 だから、冬馬と佳弥は必要な単語を抜いて会話をする。
 先頭を歩いている十夜と閖姫が、階段前で止まり、下の様子を確認してから大丈夫だと手を上げる。
 最後尾は李真と久遠が歩いている。
 久遠は弓の名手であり、後方からの攻撃に適している。また、後方から敵がやってきた場合には魔術で対応することも出来る遠近両方に優れていた。
 真中には奈月、佳弥、冬馬が歩いている。奈月は亜月ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて震える身体を抑えている。

「……なら、何が原因何だろうな」

 冬馬は呟く。

「さぁ。学園には僕たちの知らない秘密が隠されているのかもしれないね」

 佳弥が推論で反応する。
 学園の全てを自分たちは知っているわけではない。
 数日前ロストテクノロジーが隠されていたのを発見した時のように、まだまだ学園には隠された秘密が眠っている。
 それが原因で襲われた――その可能性の方が、佳弥には王族を狙った犯行というよりも合理的で高確率だと判断していた。
 四階から三階へ移動すると、まばらに敵が見える。十夜と閖姫が真っ先に駆けだす。
卓越した動体視力が、銃の引き金がスローモーションのように引かれるのを捉えた。壁を蹴って宙を移動し、相手の背後に回り込み槍を振るう。
 槍が右肩に直撃し骨が折れた音がする。相手が痛みに呻いている間に二撃目を加えて動けなくする。
 閖姫はさらに後方まで全速力で走る。刀と大剣がぶつかりあう。鞘に入ったままの刀ではあるが、鞘には特殊な魔術が編み込まれていて、刃と衝突し合っても鞘が壊されることはなかった。相手の力任せに振るわれる大剣を、力の流れを利用して受け流す。力ではなく技で大剣を吹き飛ばし、そのまま鍔を相手にみぞおちにたたき込む。

「流石。閖姫に十夜」

 冬馬が感心する。十夜と閖姫の他にも武術にたけたものが続いて走り出し、敵を倒す。李真が後で追いかけてこないように糸で縄代わりに縛る。

「これで大丈夫でしょう」
「よし、じゃあ下に降りよう」

 廊下の敵を無視し察知されないよう階段を下ることも不可能ではないが、万が一見つかった場合挟み撃ちにあう可能性が高かった。僅かでも生存率を上げるためには可能性を潰す必要がある。
 三階の学生は既に逃げた跡なのか、まばらに結婚が見える以外の形は見つけられない。
 二階、一階に敵の影はなく、外に出ることが無事に出来た。

「なっ……!」

 外に出たことで広がった風景に冬馬は思わずぎょっとした。ほっと一息をつけることはなかった。
 敵に気がつかれないよう――李真をのぞいて――外をのぞかなかったが故に、外の現状を把握出来なかった冬馬たちは驚くしかなかった。
 教師と何者かが生死をかけた殺し合いをしているだけでなく、四方八方から火の手が上がっていたり、凍っている場所もある。魔術による攻撃を学園は受けていたのだ。

「なにがどうなっているんだよ」

 十夜の呟きは生徒の言葉を代弁していた。

「何故、此処に来たんです!」

 生徒の姿を目撃した教師フェルメが声を上げる。その隙を狙って敵の魔術師が魔術を放つが、フェルメは素早く防御魔術で弾く。そして、魔力を編み込んだ矢を放つ。白銀の輝きを散らしながら放たれた矢は魔術師の防御魔術を破壊し、敵の身体を貫く。真っ赤な血飛沫が舞う。

「あそこにいたって安全じゃなかったからだ!」

 十夜が教師フェルメの言葉に代表して叫ぶ。

「……わかりました。では……仕方ありませんね。人でも足りないことですし」

 後半は独り言だった。

「では、生徒全員役割分担をしながら敵一掃しなさい」

 実戦経験は乏しくても、実技授業で戦闘訓練は行っている。
 猫の手も借りたい状況なら借りるべきだとフェルメは素早く判断した。その結果起こる被害と、なにもしないで起こる被害の割合は比べるまでもない。

「……わかった」
「あぁ」

 十夜と閖姫がまたもや代表して頷く。

「此処は私一人で大丈夫です。他の場所にも散らばっているので対処を、幼い学生に関しては教師が直接保護していたりしますが、その分戦闘に回せる教師は少ない。そこにいって教師の手伝いもしてください」
「了解」
「頼みましたよ」

 残りの敵が学生を片付けようとフェルメを無視して輝印術を放つが、フェルメがそれを許すはずもなく、魔術で相殺する。

「なに、学生を狙っているんですか。貴方達の相手は私です。よそ見するんじゃありません」

 無数の矢がさく裂する。それらは寸分の狂いなく相手の胸元を貫く。

「私は甘い学生たちとは違って、敵に対して情けをかけるほど、甘くはありませんよ」



「流石フェルメですね」

 李真が僅かに感嘆する。複数の敵を前にしても大胆不敵な態度を取り続けられるのは余程の戦闘経験を経ている人物だ。学生の経歴同様、教員の経歴もこの学校では不明瞭だ。とはいえ、偽名を名乗る学生とは違い、教師の場合は自ら望んだ場合を除き全員が本名だから、経歴を知っている学生も存在はする。
 だが、フェルメス・アーハイドについては誰も知らなかった。
 教師になる以前の過去をその名を――生徒は誰も知らない。
 けれど、李真は理解する。あの教師は、何処かで人を殺しているからこそ――今、人を殺す術を持っているのだと。

「どうします、全員一緒に行動をしていても仕方ないでしょう。別れた方がいいと思うのですか」

 李真の言葉に、冬馬が頷く。

「そうだな、魔術と武術に秀でた生徒を複数でグループに分けて行動した方がいいだろう。全員で移動すれば……止まれ!」

 冬馬の言葉に先陣を切っていた閖姫と十夜は歩みを止める。

「どうした」
「魔術の仕掛けが施されている。そこから先には進むな」
「なっ!」

 十夜が目を凝らして見ると、殆ど透明だが僅かに色の混じった線が砂の上に描かれているのが視認出来た。

「……遠回りしよう。此処は踏み入れない限りは魔術が発動することはない」

 冬馬の指示で移動する。敵の気配がない場所で一旦歩みを止め複数のグループに分かれて移動することになった。
 閖姫と十夜は実力の関係上別れる。どの作戦が適切であるかはわからないが、それでも最善だと思った最良だと生徒が思った作戦を実行することになった。結果は最後にならなければ判明しない。

「よし、じゃあ俺たちは敵を倒す。ついてこい」

 閖姫がリーダーとなり、一つのグループを先導する。

「俺たちも行くぞ」

 続いて十夜も動く。十夜のグループには佳弥が含まれた。冬馬は一瞬佳弥を心配したが、大丈夫だよと佳弥は笑みを返した

「では、私たちも行きますか」

 李真も歩み出す。冬馬気をつけて――そう目線で言葉を告げてから。
 冬馬と久遠、奈月は唯一三人一組で行動することになった。目的は周囲の魔術の仕掛けを破壊するためだ。魔術の知識が豊富な冬馬、魔術を扱うのが得意の久遠、展開術式が得意な奈月であれば、魔術の仕掛けを破壊出来ると判断した結果に基づいている。
 得体の知れない集団に勝利するため――学園が学園としてあり続けるために、それぞれが動く。


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