零の旋律 | ナノ

Assailant


 常に平穏に日々が流れるとは限らいない。月日は流れていくのだから。同一の日はない。
 ロストテクノロジーを発見してから数日後、学園に異変が訪れた。
 太陽の日が沈みかけ、生徒たちの授業が終わりのベルを響かせようとした時――ベルの代替え品のように爆音が響いた。
 それは合図。襲撃者たちが自らの存在を誇示するために出した破壊音。

「な、何だ今の音!?」
「何が起きたんだ!?」
「えっちょ、爆発音!?」

 生徒たちに動揺がはしる。
 普段ならば魔術の練習の失敗による爆発音と判断したのだろうが、今回は違った。爆発音の規模も、続けざまに轟く爆音も――魔術の失敗によるものではなかった。
 アルシェイル学園に何かが起きた。

「一体何が」

 佳弥が立ち上がり教室の窓から外の様子を見ようとしたが

「止めなさい! 不用意に外を除いては危険です!」

 授業を受け持っていた教師フェルメス・アーハイドが慌てて止めた。授業は終わろうとしていたが、まだ終わってはいない。つまりこの場には生徒だけではなく――教師も存在した。

「はい」

 佳弥は返事をして足を踏みとどまる。窓側の生徒へその場から離れるよう指示を出してから、フェルメは慎重に外を覗く。無数の人影だ。アルシェイル学園には関係ない無数の人影のさらに数名が魔術を発動して学園に攻撃を仕掛けている。

「……何者かが学園を襲撃しているようですね。私は連絡をとってきますので、出来るだけ動かないように。いざというときは、各々が戦いなさい、それだけの実力はあるのですから」

 フェルメは迅速に駆けだしていった。
 取り残された生徒たちは冷静にしている者、慌てている者、落ち着いている者十人十色だ。冬馬はこの授業が選択ではなく必修で良かったと胸をなで下ろす。
 選択授業では覇王や、それに次ぐ十夜や李真といった冬馬にとって安心出来る人物がいなかった可能性がある。閖姫と十夜は示し合わせたように、既に刀と槍を手に取り、廊下への出入り口左右に待機していた。
 迅速果断な行動力には冬馬も恐れ入る。

「……フェルメの言う通り、基本は此処で待機しておくべきだな」

 久遠の言葉に冬馬は同意する。現状なにが起きたかわからない状態で外に出るのは危険だ。

「どうして学園が?」

 奈月が亜月ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて震える手を隠そうとする。

「さぁ。もとよりアルシェイル学園は襲撃されても不思議ではないでしょう」

 淡々とし焦りの表情や現状に対する緊迫感すら全く感じられないのは李真だった。

「李真は怖くないの?」
「さぁ、どうでしょう」

 奈月の問いに隣に立つ李真は不敵に微笑み返す。それが――答えだった。

 何も起こらなかったのは数分間だけだった。廊下に足音が響く。生徒の可能性を信じながらも閖姫と十夜の武器を握る力が増す。
 足音が徐々に近づいて来るに従って緊張感が増える。息をのむ音がする。
 果たして現れたのは――生徒ではなかった。武装した集団だった。全員同じトレードマークを身につけて黒のローブを羽織っていることから一つの組織なのだろうと判断する。明らかにその目は人を殺す目だった。
 十夜と閖姫が目線で会話をする。武装した人間たちが一歩一歩近づいてくる。距離が徐々に詰められてくる。銃の引き金を引かれるよりも早く武器をたたきおとせる、と判断出来た距離になった時、十夜と閖姫は同時に動き出した。
 死角から同時に飛び出す。銃が焦点を合わせるよりも早く、閖姫と十夜の武器が銃をたたき落とし、そのまま身体の重心を移動させながら、武器を操り、懐に強烈な一撃をたたき込む。がはっと胃液が飛びだし、そのまま昏倒する。二人は不意打ちで倒せたがまだ人数は残っている。
 アルシェイル学園の廊下は十人が並んで歩けるほどに広いが、戦闘をするのに適した場所ではない――もとよりそういう構造に作られていないのだから。逆に銃などで挟み撃ちをされた場合は不利だ。
 反対側からやってくる気配は今のところないが何時までもないとは限りらない。
 残り人数は十五人。閖姫と冬馬だけで片付けるには聊か不利だった。
 相手は人を殺すにことに対して躊躇しない集団、対して此方は学生だ。実戦経験において天と地ほどの差がある。
 一人が動き出したが、途中で身体が宙に浮いた。不可視のそれに捉えられた対象はもがけばもがくほどに身動きが取れなくなる。絡まって絡んで自力での脱出を不可能にする。何が起きたのかをいち早く察した冬馬が走り出し棒で昏倒させる。
 不可視のそれに捉えられるのではないか、と過った疑問が残りの集団の反応を鈍らせる。僅かな隙を逃さず、佳弥の華麗なるとび蹴りがさく裂し、昏倒する。
 狭い場所での乱戦は得策ではない。短期決戦を決めなければと残りの相手へ閖姫と十夜が視線を鋭くする。
 状況は有利ではなかった。相手が足を踏み出すその瞬間まで。残り三名が足を動かして距離を詰めようとした時、身動きが取れなくなった。
 不可視のそれに絡め取られてしまったのだ。過った疑問はそのまま現実のものになった。
 冬馬より思考速度が遅れたとは言え、閖姫と冬馬もすぐに状況を察する。

「李真!」
「私が抑えているうちに早く昏倒させなさい」

 李真の武器は糸だ。視認出来るか出来ないかの限界まで細く作られた糸が対象を絡め取ったのだ。一見すると何故相手は動けないのか理解できない。
 指一本動かせないほどに絡まった糸に対して逃れる術はない。動けなければ状況は此方のものだ。残った面々が相手を的確に気絶させていく。

「……此処にまで、何者かがやってきたとなると残るのは得策ではないでそしょうね。狭い場所で乱戦になった場合、勝ち目は少ないですよ」

 李真の言葉に、閖姫と十夜は頷く。少なくとも実技授業gTとUの実力を有する閖姫と十夜が狭い場所による乱戦は得意ではない。
 教室や廊下には窓があるが、四階のこの場所では飛び降るのは厳しい。いざという時に逃げ道をふさがれたら万事休すだ。
 下に行く方が危険は高くなるだろうが、その分外に出れば広くなり人数で圧倒的出来る可能性もある。
 教室にいるのが得策だったのは集団が此処を襲うより前の話だ。連絡が途絶えたことを不審に思って他の人間たちがやってくる可能性が多い。
 今回は偶々運が良かったに過ぎない。二度も幸運が続くとは到底思えない。

「よし、移動しよう」

 閖姫の決断に反対するものはいない。足音を出来るだけ立てないように慎重に移動する。
 李真は状況を理解出来る手がかりがないかと窓の外を眺めるが、目ぼしい情報はない。自分だけ糸を伝って外に降りるかと思案したが、単独行動はまだしないほうがいいと判断した。


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