零の旋律 | ナノ

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 朔夜は自宅に夜中一時帰宅した。しかしそこに篝火たちの姿はなかった。必要なものをとって朔夜はそのまま榴華の家に向かう。
 次の日は早朝から動き出した。朔夜の機嫌はすこぶる悪い。理由は単純で、寝ているところを朧埼が無理矢理起こしたからだ。
 因みに普段は篝火が朝食を作るが篝火不在のため、本日の朝食は朧埼作だった。
 それを食べた榴華は朧埼の外見と反した料理の腕前に感心する。本来なら榴華の秘書的存在であり、榴華が唯一大切に思っている柚霧(ゆずぎり)が料理を担当するはずだった。しかし第一の街で榴華と言う存在そのものが柚霧を守る防御壁となっていても、榴華が出かけている中で一人置いていくのは心配だった。だから榴華は最も信頼が置ける第二の街支配者雛罌粟(ひなげし)に柚霧を預けた。雛罌粟は嫌な顔一つしないで素直に快く榴華の申し出を受ける。それは相手が榴華ではなく柚霧だったから、ともいえたが。

「ほー、自分そんな特技があったとは驚きや」
「これでも特技でもあり趣味なんだよ」

 自信満々の朧埼の言葉通り、料理は絶品だった。朔夜も思わず目を見張る。ひょっとしたら自分より上手なのではと思ってしまう程に朧埼の料理は美味だった。朔夜自身面倒故、普段率先して作ることはしないが、それでも料理は得意分野の一つ。もっとも闘争心はない為。どちらが上でも構わないのだったが。

「本当にうまいなぁ……」
「俺としてはその口の悪さに反した行儀よい食べ方の方が疑問なんだがよ」

 朧埼は首を傾げる。朧埼自身は日鵺家で生まれ育った。例え賊に滅ぼされたとしても。しかし例え王族のものだとしても朔夜は罪人の牢獄にいる人物。教育を受けているとは思っていなかった。礼儀作法を細部ではしっかりとしている朔夜に、口調も礼儀正しくしろよと朧埼は思う。思ったところで朧埼自身口が悪いのは自覚しているので墓穴を掘らないため、問うことはしない。
 食事を終えた後は第三の街に向かう。道中罪人に襲われることはしなかった。圧倒的力で第一の街支配者に君臨している榴華に襲いかかろうとする不埒な輩はいない。
 榴華は本日も欠伸をしている。余程寝不足なのか暇なのか。恐らくは後者だろう。

「さて、本日は物語の進展はあるのやろうかねぇ」
「榴華お前暇すぎて最初の台詞素に戻っているぞ」
「あらま、全く自分駄目やねぇ、自分で作ったものは自分で維持しなきゃなぁ」
「なんでそんなのに拘っているんだ?」

 普段からの口調なら朔夜は疑問に思わなかっただろう。だが榴華は本来の口調と偽りの口調を使い分ける。最初から本来の口調で話せばいいのに、何故態々偽る、と。

「まぁ、自分のルールみたいなもんよ、こまいんことは気にしなでいいよー」
「たく」

 会話が繰り広げられているうちに第三の街に到着する。赤、そして和と洋を織り交ぜた独特の、人を寄せ付けない雰囲気が漂う。
 第一の街を明だとするなら、第三の街は紅だった。暗と言っても間違いではないだろう。
 その独特の、それこそ此処が罪人の牢獄ではなくとも、太陽が昇らず月も昇らない場所をイメージさせる。


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