零の旋律 | ナノ

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「泉さん元気?」

 聞くまでのことではない。榴華はそう思っているし考えている。けれど話のネタとして振ってみた。共通の話題等数少ない。新たに話題を発見するより、元々ある話題の方が手っ取り早いと榴華は思ってのことだ。

「元気ねぇ……。元気の方が困る気がするけどな」

 答えたのは朧埼ではない。炬奈だ。
 決してそれは元気ではない、病気にかかっている、そういった類の意味ではない。それを榴華は言葉の濁りから感じる。

「どうしてや?」
「お前らだって二年、泉と一緒に過ごしたのならその程度のことわかるだろ? あの男が誰のためにしか動かなくて、何のためにしか行動しないかなんて」
「まぁ、それはそうやけど……、つまり守るべきものがなくなった今、何をしでかすかわからない、ゆうことやね?」

 確認。是はただの確認作業。認識するために。

「そういうことだ。何か画策している。何を仕出かすかわからないし――それにあいつの周りにいるやつもねじがぶっ飛んだような狂人ばかりだからな。結託した時こそ、恐ろしいぞ」

 苦笑いを炬奈はする。

「類は友呼ぶってところやろか」
「同気相求む、似るを友、でも可」
「まぁ、俺としては泉が此処に手を出さなければそれで問題はないけれどな」

 最後だけ、道化を被るのを止める。榴華のその本性と偽りの使い分けに、冷や汗が僅かに流れる。現場敵としての存在ではなくて良かったと。

「でもまぁ。自分態々こんな奈落の底にやってきてまで何かをしようとするなんて、面倒なことするねぇ」

 感心半分呆れ半分な榴華の態度に、苦笑する。それもそうだ。いくら復讐のためとはいえこの罪人の牢獄に足を運ぶことなんて普通はしない。そもそも本来罪人の牢獄は非公式の存在。ごく一部の存在しか知ることの出来ない場所。

「まぁ、私もそうは思うが、打たぬ鐘は鳴らならいからな」
「まっ、自分は柚霧にさえ被害がいかなければ何でもいいんやけどねぇ」

 榴華は眠そうに欠伸をする。ストレッチを堂々と始める。もっとも歩きながら故。大したストレッチは出来ないのだが、気分転換の一種だろう。
 その後も暫く散策したが、一向に成果は現れなかった。その日は断念して次の日に再び行動を開始することになる。次の日は第二の街を飛ばして第三の街に行くことになった。第二の街は最も復讐相手がいる可能性が低いと判断されたからだ。
 第二の街はこの罪人の牢獄の中でもっとも平和な街。平穏な街として知られる場所だから。

「まぁもしも万が一改心していたらいるかもな」

 炬奈は冗談とも本気ともとれる言葉を呟く。


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