零の旋律 | ナノ

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『生きたい』

 その選択肢を後悔したことはない。
 あの時掴んだ手が決して光でなくても、あの時掴まなければ死んでいた。
 生き伸びる為に、なんでもした。
 そして是はその結果――見つけなければならなかった。自分が自分であると証明できる証を。

「……此処をいくら徘徊しても意味がないと思うぞ」
「それくらいわかっている。それでも……徘徊しなきゃと思う感覚が俺の中に存在しているんだ」
「まぁ俺は何もいえないけれど」

 かといってこれ以上この地を徘徊しても、検討はつかないと感じていた。炬奈と朧埼の目的とは違う。

「まっ、時間はあるし、慌てずいこうか。慌てる乞食は貰いが少ない」
「襲われたらひとたまりもないけどね」

 栞は苦笑しながら先頭を歩く。
 最果ての街支配者梓は、恐らく栞が元第三の街支配者だと知らない。
 栞が支配者だった頃の最果ての街の支配者は梓ではなかった。


+++

 一方その頃、朔夜と榴華、炬奈と朧埼は手始めに第一の街を散策していた。炬奈と朧埼の目的は一族を滅ぼした集団に復讐をすること。顔は朧埼が覚えている。だからこそ罪人の牢獄を彷徨い歩くしかない。   
 地道な作業。榴華は開始早々飽きて欠伸をしながら散策している。

「暇やーなんや、この作業暇すぎるんや」

 だらけきった姿を見せる榴華に朔夜はため息一つ。人選ミスだったかと思わないわけでもない。
 実際いくら郁と泉の知り合いだったとしても、こういった地味な作業は性に合わないと朔夜は感じる。
 元々めんどくさがり屋な朔夜だ。篝火がいなければ部屋の中は魔の巣窟と化しているし。食事も気がついたら適当に食べる程度で自ら料理を作ることもしないし、外出も滅多なことがなければしない引きこもり。

 地味な作業はどちらかといえば篝火向きだった。
 遊月の目的を朔夜は知らない。だからこそ、榴華と共に行動をした。もしも知っていたなら朔夜は遊月と行動を共にしただろう――意地にでも。

「暇や暇や、何か自分面白いことないん? 自分飽きてきたわぁ」
「さっきから暇暇暇うるせぇよ」

 短気で喧嘩っ早い朧埼の怒声が響く。本日四度目。

「じゃあ自分何か面白い話してやー。自分もっと活発的に動く方が好きなんよ」

 身体を左右に揺らす榴華。髪の毛も同時に左右に揺れて朔夜は邪魔に思う。
 一度帰宅してハサミを常備してから戻ってこようかと考える程には。

「面白い話ねぇ」

 朧埼は少し思案し始める。朧埼も朧埼でこの地味な作業が好きなわけではなかった。 復讐をするためとはいえ、暇なものは暇だった。

「何か聞きたいことねぇの?」

 逆に朧埼は質問で返す。もし、上のことで知りたいことがあれば、それを教える方が面白いことを探すより簡単だった。
 榴華は首を限界まで捻って考える。一々動作が大げさなやつだ、朧埼は心の中で呟く。


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