V 「どうしたの?」 三人の視線を不審に思った栞は訪ねてくる。 「お前、さっきあの男が元第三の街支配者っていってこいたことは本当なのか?」 「あー、それか。うん、本当だよ」 あっさり認める栞。なら何故最初から言わなかった。そう思わずにはいられない。 「何故隠していた?」 遊月が詰め寄る。困った顔を栞はする。別に隠していたつもりはない。ただ、言わなかっただけ。 「だって元だし。元々なりたくてなったわけじゃないからね」 「じゃあ何故、今生きている?」 元だとしても、支配者が変わったのなら、大抵。元の支配者は死ぬか殺されている。しかし栞は生き伸びている。今まで通りに。 「あぁ、だって俺の方は力づくで奪うとかそういったものじゃなかったから」 「そうかのか?」 「うん。譲ってって言われたから是幸いと譲っただけなのよ。晴れて隠居生活」 そんな支配者いねぇよ、と罪人の牢獄に詳しい篝火と遊月は呆れる。そしてそんなことが可能なのも栞だけだろう。 「なりたくてなったわけじゃないから、未練とか執着とか全然なかったし」 「ならなったんだよ」 正論な突っ込み。 「あはは、ちょっと色々やからしちゃってね」 栞は答えるつもりがないのだろう。笑って誤魔化す。その誤魔化し方が露骨でも、これ以上二人は何も問わなかった。答えるつもりがないことは、仮に無理やり吐かせようとしても聞き出すのは容易ではないから。そして――第三の街の支配者であり、さらにあの兄弟をあっさりと引き下がらせる程の実力を保有しているのなら、吐かせるのは並大抵ではない。 「たく」 遊月は再び歩きだす。但し今度は不要な争いに時間を取られないように栞を前に置いて。 元々弱肉強食な場所ではあるが、最果ての街はさらにその色が強い。だからこそ、元第三の街支配者を前に置いてあるけば、栞の存在を知っている者なら襲われない。そう判断したのだ。 案の定その作戦は功を奏し、その後はスムーズに街を歩けた。時折獲物を見るような視線がきたが、別の誰かに留められたのだろう、その視線はすぐに消えさる。 栞からはなんで俺を前に置くかなぁと文句を言われたが遊月はそれを無視する。 「で、ところでこの街を適当にさっきから徘徊している変わり者の俺たちは一体何処に向かっているんだ」 最果ての街についてから早二十分は経過している。その間目的もなく彷徨っていた。 「目的ってのはわからないんだよな。正確には。でもこの街にならある気がする――そんな感覚だよ」 「曖昧だな」 「曖昧だよ。なんせもう随分昔になるからなぁ……」 [*前] | [次#] TOP |