零の旋律 | ナノ

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 チャクラムを投げて戻ってくるまでの間、弟の方は手ぶらになる。下手に他の武器を使ってチャクラムが戻ってきたときに、掴みとれなければ意味がない。そう考えている弟のほうはチャクラム以外の武器を一切持っていなかった。予想外だったのはこうも簡単に間合いに入ってこられた、ということ。
 唯乃は髪の毛を鋭い刃のように尖らせて攻撃する。その攻撃の仕方に驚愕しながらも、チャクラムがギリギリのところで戻ってくる。唯乃の攻撃でバランスを崩されないように細心の注意を払いながらチャクラムを回収する。
 下手に投げることは止めた。戻ってくるまでの隙に攻撃されて、掴むことすら失敗してしまうわけにはいかないから。だからこそ、弟の方は円盤を指で挟みながら様子を見る。投擲するのは確実に外さない判断のその時だけ。

 むやみやたらに投げてこない相手に唯乃は心の中で単なる戦闘狂ではなかったことに感心する。
 腕を武器化して唯乃はチャクラムの刃とぶつけ合わせる。相手は円盤を指で挟んでいるだけ。こちらがおせば、自身の武器であるチャクラムによって彼は傷つけられるだろう。そう判断して。しかし相手も長年使っているチャクラムだ。そう簡単にはいかない。旨い具合に唯乃の攻撃を流す。
 流すことでぶつかった衝撃の力を緩和し、自分にダメージがいかないようにしている。


 双方、譲らない争い。
 それは死ぬまで決着がつかないと見えた。
 唯乃と弟も、遊月と篝火と兄も。
 だがそれは唐突な発砲音で一時休戦となる。

「なんだ?」

 それは空に向け垂れて放たれた一発。威嚇射撃だった。
 それをした人物――栞に視線が集中する。

「駄目だよ、下手に争っちゃ。ねぇ?」

 後半は篝火たちではない。兄弟に向けられている。
 栞の姿に今まで気がつかなかったのだろうか、兄弟は顔を引き攣らせた――その姿見見覚えがあるから。

「だから此処は、円満解決っていかなくても、双方譲り合ってなかったことにしようよ。俺殺し合いは好きじゃないし」
「……」

 兄の方は栞を睨む。だか栞は気にした様子はない。へらへらとしている。

「駄目?」

 おねだりをするような表情に、毒毛を抜かれたのか、兄はため息一つ。

「……わかったよ」

 乱暴にそう言い放つと、フランヴェルジュを鞘の中にしまう。弟も兄が武器をしまったことにならって、武器をしまう。その様子に、篝火たちは呆然とする。何者――疑問がわく。

「たく、厄介なのが一緒にいるならいるって最初からいいやがれ――元第三の街支配者がっ」
「だって、俺その肩書好きじゃないも―ん」

 兄弟は来た道を戻り岐路についた。先刻までの戦いが嘘のようだ。
 そして、篝火たちには確認することがあった。
 ――今何と。兄は言っていた。
 栞のことを元第三の街支配者だと。


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