零の旋律 | ナノ

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 篝火は梓たちと一緒以外ではほぼ訪れたことのない最果ての街。その罪人たちがどれ程の実力者かわからない。篝火は右手を少し前に出し、身構える。何時でも対応できるように。
 この最果ての街はこういったことが多々起きるからだろうか、他の街より道が広い――まるでそれは最初からそのように“造られた場所”だと言わんばかりに。

「ひゃひゃひゃ、こんな街には足を踏み入れない方が、お得さ」

 弟の方が先に出る。円盤を指で挟み。勢いよく腕を振り、投げてくる。
 それは一直線上に速度をつけてやってくる。篝火と唯乃は左側に、遊月と栞は右側に避ける。
 チャクラムは回転しながら、途中で弟の方に戻ってくるため、再び後方からやってくる。
 狙いは――唯乃だ。
 唯乃はバクテンをする形で避ける。軽やかな動きに四人がただの弱い罪人ではないことを判断する。
 もっとも弱い罪人等、最初からこの地に足は運ばない。
 チャクラムを弟は受け取る。まだ回転を続けている。下手をすれば自らの手をやられかねないが、扱い慣れているため、そんな初歩的なミスはしない。

「へぇ、多少はやるじゃん、楽しくなってきたぁ」

 ステップを踏むその姿に、戦闘を、殺し合いを心から楽しんでいる――そんな感じを受け取る。

「悪いですが、私たちは探し物があるのです。貴方達に一回一回構っている暇はありません」

 唯乃は弟の方に突撃する。容赦をする必要はない。まかり間違って主にチャクラムが当たっては困る。  
 第一相手は中距離を得意とする相手。ならば間合いを詰める。唯乃がそう判断したのは当然のことだろう。
 弟はチャクラムを投げる。回転の勢いは早く、一撃でも当たればただではすまないが、唯乃はそれらを全て交わしきる。当たらなければ、チャクラムを手放している間は無防備。

 しかし兄の方が黙っているはずもなく、唯乃にフランヴェルジュで斬りつけようと跳躍する。振りおろせば唯乃を傷つけられる――その手前で、フランヴェルジュは制止させられる。長く伸びた何かによって。兄がその視線の先をおうと、その何かは爪だった。長く伸びた爪が、フランヴェルジュを抑えていた。兄はその爪を板として利用し、後方に下がる。

「へぇ……中々。中々」
「おにーさんの相手は此方だよ」

 強気で出る遊月の言葉は自信の表れだった。この最果ての街に挑む以上最初から戦闘ごとは覚悟の上
 その上でやっているのだから。それに遊月は絶対に勝てるという自信と確証があった。別に敵が弱いからでもないし、遊月が強すぎる、というわけでもない。
 篝火も動く。フランヴェルジュという厄介な武器を持っている相手に、素手で挑むのは心もとなかったが篝火はそれでも遊月のほうに加勢した。唯乃の方は大丈夫、そう思ったから。
 一方栞はどうしようか迷っている風だった。それが何を迷っているのか、篝火たちは咄嗟に戦うことに迷っていると判断した。そこまで強くないのか。戦いたくないのかは理解できなかったが。

 篝火は間合いを詰める。フランヴェルジュの攻撃が迫って来た時、交わそうとしたがそれは必要なかった。遊月の爪が、フランヴェルジュを抑えてくれる。篝火はならばそれを気にする必要はないと判断して、攻撃に移れた。
 それでも爪は抑えているだけで、フランヴェルジュを止めているわけではない。篝火の攻撃が目前に迫ると、すぐに後方に下がり拳がと届かない位置に移動する。


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