第一話:存在した街 ――君は何をノゾンダ? 破壊か再生か、絶望か希望か、夢か現実か 虚無か虚偽か虚構か空虚か 「姉さん、姉さん! 放してよ」 梓と罪人達から逃げた。朧埼の手首をつかみ全力疾走していた炬奈は朧埼の言葉で一旦足を止める。 後ろを振り返るが、罪人達が後を追いかけてくる気配はない。 もう大丈夫だろうと、呼吸を整える。大分走ったのだろう、心臓の鼓動が速い。 「ふぅ」 一息休憩しようと、その場にしゃがみ込む。 地面はザラザラとした感触を抱かせる。そこは石畳が荒れ果てた場所ではなかった。 砂が辺りを覆っているのか、踏むと軽く沈む。 「姉さん、何で逃げたの? 確かに五人は俺には厳しいけれどあんな女の一人姉さんなら勝てたんじゃないの?」 「あんな狂ったような奴、まともに相手をしていたれるかっ。それに……あの女並大抵の強さではない。このまま戦っていれば、負けていたのは私だっただろうな」 「そんなっ!」 悲痛な声を朧埼は叫ぶ。表情も悲壮だ。 梓の言動は朧埼も目の当たりにしている。それでも自分とは違い戦闘能力の高い姉なら大丈夫だろうと思っていた。だから姉からそのような言葉を聞くとは思いたくなかった。 「……過信すれば、それはそれだけで破滅の道を誘うかもしれないぞ、朧埼。といっても朧埼は過信なんてしないか」 「ぶーどうせ。するだけの実力なんて持っておりませんよ」 「そういう意味じゃないんだけどな」 「ぶーぶー」 頬を膨らませる朧埼はそれでも微笑んでいた。 一度死にそうだった、一度全てを失いそうだった それでも、今生きていて、隣には姉がいる それだけで、生きている意味を意義を朧埼は実感できるから ――俺がいなければなんて思わずに済む 「でも、姉さん、これで俺達二連敗だよ」 「……」 「流石にそろそろ挽回しなきゃ、このまま罪人の牢獄敗北記録を更新し続けるよ」 「……朧埼は負けず嫌いだなぁ」 「そういいつつ、姉さんもでしょ。間が長い」 「……」 その日はこれ以上先には進まず、休息することにした。人の気配はない。 その地は時おり吹く風で砂が舞ったが砂に埋もれることはない。砂程度なら支障はないと判断した。辺りを見回したところで景色が変わる気配はない。ならば、体力が尽きる前に休息することが先決。 下手に彷徨って体力が限界に達した時、罪人と出会わないとは限らない。 睡眠不足は人の思考回路を麻痺させる。判断が鈍くなる前に、睡眠をとる。 「なぁ、姉さん、まさか一日一人変人以上なんてことはないよな?」 「あってたまるか」 「だよね……ははは」 明けること無き曇天の空は 感覚を消滅させる 地場が狂ったその土地は やがて磁気を使えなくする 己の体内時計すら役に立たなくなり 現実の昼と夜の区別がつかなくなる 昼と夜が逆転をし、飛び跳ねる 光と闇が交差し、蠢く いつか、狂い始める旋律を大地は奏でる 『お前が望むのならばお前が願うのならば――いつだって手を伸ばそう』 [*前] | [次#] TOP |