X 響いて波のように押し寄せてくる感覚から感じ取るその様子 炬奈は気配に焦点を合わせて銃口を梓の心臓部に向ける。 一ミリともずれない焦点 しかし、そんな様子を見て梓は慌てる様子はなかった。 ニヤリと歪んだ表情を見せるだけ 「……」 炬奈は冷静に引き金に指をかけ、ゆっくりと引き金を引いた 弾丸は風を切り裂く勢いで梓に向った発射されたが、それでもなおのこと梓は動こうとしなかった。 「……何故動かないんだ」 その様子に今まで黙っていた朧埼は手に鈴のついた紐を握りしめながら疑問に思う しかし、その疑問は梓の体に銃弾が直前まで接近した時に解消された。 「っ!? 何あれ……」 梓の周りには、今まで瓦礫という廃墟の地面しかなかった。それが今や瓦礫の僅かな隙間を縫って土の中から数本の太い蔓が梓の体を守る盾となっていた。 深緑の太い蔓は炬奈の放った弾丸を正確に絡め取ってその動きを停止させた。 「ざーんねんでした」 両目を瞑って微笑むその動作は、まるで小さい子がゲームで失敗したのを伝えるようだった。 「この子たちはねぇ、私の意思で私を守ってくれる滅びの盾になってくれるのよぉ。 優しいよねぇー自分の身を呈してぇ私の力に応じてくれるの。私が望めばぁ、どんな処にだってぇ、現れるのよぉ――それが私の力」 その言葉とともに、梓は再び目を開きその視線を炬奈へと向ける。 それと同時に蔓は意志があるかの如く、炬奈に向って先端を鋭い矛へと変換させ襲いかかってきた。 梓の視線が、彼女を殺せと命じているから 梓の視線が、彼女をそのままの状態で殺せと命令しているから 蔓は梓の力に従って蠢く敵となる ――真っ赤な花弁で、腐敗した大地を彩どって 「じゃあ、貴女達はあそこーの少年をやっちゃってぇ」 梓の周りにいる五人の男たちは、梓の命令に喜びを顔に表す。命令を待ってましたといわんばかりに、刃をおろ朧埼に襲いかかる。 余計な足音を立てないで一歩一歩近づいてくる男たちに一瞬朧埼は顔を歪める。 その辺のゴロツキなら、朧埼でも簡単に倒せる自信があった。その程度の実力は保有している。しかし隙のない動作で一歩一歩確実にやってくる、油断も驕りもない男たちに、朧埼は確実な勝算を見いだせなかった。 けれど、諦める気はしなかった。 自分たちの目的を、『復讐』を果たすために、そして姉という一番大切な何物にも代えられない存在を失わないために武器を構える。 蔓と格闘する姉を見る余裕はなかった。 ――最悪、再び力を解放しようとも、姉さんだけは救うよ あの時、姉に命を救われたように 今この時があるのは姉がいるから―― [*前] | [次#] TOP |