零の旋律 | ナノ

V


 朱に染まった人を求める
 誰かを愛することに意味なんてあるのだろうか
 誰かを守りたいと思うことに意義なんてあるのだろうか


 瓦礫に足を取られないように、しかし、下ばかりに気をとられるわけにはいかないから、敵を見据えて炬奈と朧埼は後ろに跳躍する。
 そのまま、炬奈は手を横にやる。朧埼が攻撃を仕掛けようとしていたからだ。
 口は何も言わなかったが、炬奈は手を出すなと心の中伝える。
 それを朧埼も正確にくみ取った。
 文句は言わなかった、いったところで自分と姉との実力差でそれは無意味に等しいから。しかし大人しく待っているつもりも朧埼にはさらさらなかった

 今この瞬間、姉が危険にさらされているのに、自分だけ何もしないわけにはいかない。あの時、あの女と戦った疲れが確実に癒えているとも言えない状況で姉の実力を信じていないわけではないが、それでも不要な怪我は一切追って惜しくないから。

 誰に、シスコンだとか姉主義だといわれようが、関係なかった。
 自分を誰も守ってくれなかった日鵺の血統を持つ、自分を初めて命を掛けて守ってくれた姉を。
 大好きだから

 それだけ。


「物騒な言葉を平然と羅列しやがって」

 炬奈は薄笑いをしながら銃を構える。
 槍で戦ってもいいのだが、それでは五人相手では隙も生じやすいと判断したからだ。炬奈は乱戦を得意とはしていない。槍を使い、一人でも炬奈の攻撃範囲内の外に出れば、そして一人が反撃をしてきたら――攻撃した反動で防御までの間が出来てしまう。
ならばいっそ銃で離れた場所から攻撃する方が有利だと判断したのだ。

 朧埼に怪我をさせるわけにはいかない。
 炬奈は拳銃の扱いがそこまで得意ではなかった。しかし、下手といわれればそうではない
 銃弾の殆どは正確に相手を貫かせるだけの腕前は持っている。
 だけれども、それは焦点を合わせるごく僅かな時間があった場合のみ。
 そして、もっとも銃を扱う上で欠点というのなら、近距離でその“瞳”で的を射ることだった。
 感覚をとるのは、簡単なことでは決してないからだ。
 五人の罪人はまだ動かない

「(闇の中だったら、まだ動けたのに)」

 炬奈はそう心の中で忌々しそうに吐き捨てる。
 もしも、なんてないけれども、もしもがあるのならば……そう願ってしまう自分がいた。

 別に誰にとは言わないけど、きかないけど


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