零の旋律 | ナノ

V


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『あぁ、でも、あの罪人達を殺したのはあの女性のほうでも、その後の処理をしたのは日鵺じゃないよ』


「あの二人ではないのですか?」

 唯乃は遊月の発言に、多少の驚きを見せる。
 そして自分たちが通ってきた道のりに殺されていた罪人達を思い出す。殆ど原型が留まっていないような形状、まだ、湿っている血液。殺されてまだ数時間しかたっていないであろう罪人
 銃痕の跡が一人一発ずつ見える。それが致命傷となって息絶えたのだろう。
 一撃で相手を仕留めるような銃の腕を持ったものの仕業
 そして、殺したあとに乱雑に扱われた痕跡――

「あぁ、あの銃で殺したのはあの日鵺だ。でも……あれは献上だ」
「献上ですか?」
「そう、献上、力なきものが力あるものを自分の君主として祭り上げるための献上品さ」

 そう言って遊月は薄笑いをする
 憐れんでいるわけでもなく喜んでいるわけでもない
 別段何も思っていないそんな薄笑い
 一般の人が見たら、それだけで、恐怖で足が震えその場に立ちすくんでしまうようなそんな薄笑い。

「……自分たちが生き残るためですか?」
「そう、自分たちが生き残るために他者を殺すんだ、そして自分の力を誇示するために君主に殺さないで下さいって喚いて、他者を殺した破片を持っていくのさ、それが強さの証、はははは」


 他者の死を持って我は生きる

 原理法則秩序遵守
 罪人の世界では何もない、あるのは力あるものが決めたルール
 罪人の牢獄の最深部にある、罪人の牢獄とは一見すると思えない、
 廃墟ではなく、建物が並ぶ人の移住区
 一見すると、罪人の牢獄ではなく、外の政府が管理する世界のようにも思えるのだが、外は灰色の人工的な空に覆われている。
 このことが、この場所を罪人の牢獄だと認識させていくれる。

+++

 その建物の一角、他の建物より大きく荘厳
 その中に、二人の男女がいた。
 部屋は質素で、丁寧に片付いてあり散らかっているものはない。

 ソファーには、女――梓が座り、髪の毛を巻いたりほどいたりを続けている。
 そんな梓に向かって、ソファーの向かい側にあるクローゼットの傍に銀髪の青年が立っている。

「梓、僕はちょっと出かけてくるけれどもいいかな?」

 手には罪人の牢獄世界にしては奇麗な、鈴蘭をモチーフにした紋様の入ったクローゼットから取り出した羽飾りのついたロングコートを持っている

「ダメといっても出ていくくせに何をいうのよぉ。それに僕なんて気持ち悪いわよぉ、今すぐ止めないと殺しちゃうわよぉ」
「ひどいなぁ……俺はこれから高貴な役者を探すんだ」
「あははは、きゃはははっ、下手な猫かぶりを何故今まで私のとこでしていたのぉ」

 口調は笑っているのに、笑っているのは口調だけ
 依然として髪の毛を手でくるくると巻いている。何処か壊れた言動を見せながらも会話を銀髪の青年は続ける。

「その方が、面白いだろ?」
「そっ、じゃあ私も出掛けるぅ」

 そこでようやっと、梓はソファーから立ちあがる そしてそのまま、ドアへと歩いていく

「一緒に出掛けるかい?」
「嫌ぁよ、私は私で好きなように出かけるのよぉ。僕なんていう気持ち悪いやつと歩くつもりないしぃ」

 梓はそれだけを言うと、そのまま、外へと出て行った
 銀髪の青年とは違って、コートの類は一切持たないで、そのままの格好で。


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