零の旋律 | ナノ

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 目の前で消えていく灯
 数分、いや、数秒前までは燃えていたその灯はあっという間に儚く消えていく

 ――行かないで! おいてかないで!!

 いくら叫んだところで消えゆくものは風にさらされて灯は消え去る

 足掻いても足掻いても何も変わらない
 睨んでも、恨めしんでも、何も叶わない

 誰も助けになんて来てくれない
 誰も何も私に何もしてくれない、だったら
 私も何もしなければいいんだ、自分以外何も関らなければいいんだ


 ――はははは、はははははっ、あはっははは

 歪んだ頬は、狂喜する
 満ち溢れるほどの慈愛などは微笑まない


+++


「主? どうかされましたか?」

 日鵺の前を過ぎ去った後、遊月は口元に手を当てて静かに笑い始める。何処か嘲るような笑い。純粋に笑っているわけでは決してない。

「いや、滑稽だなと思ってさ」
「滑稽ですか?」
「あぁ、どうせ日鵺の目的は復讐だろう、自分たちの一家をあんな目にあわせた奴らに対しての復讐だ、復讐したところで、何も戻っては来ないのに御苦労さまなこった」
「日鵺の復讐ですか?」
「あぁ、そうだよ。聞いた話によるとね、日鵺は日鵺のある特殊な力を狙った輩が日鵺の一族を皆殺しにしようとした事件が起こったんだ、おそらくその事件があっても生き延びた日鵺の生き残りだろう、二人は」
「成程、ですからあの二人はこの地に降り立ったんですね」

 唯乃は納得したのか、それで話を打ち切ろうとしたが、遊月はそれ以上の話を続ける。

「だがな、日鵺の特殊な力は何世代か前に既に滅んだんだ。誰もその特殊な力を使えなくなった。だから、日鵺なんて名ばかりだったんだよ」
「では……その特殊な力が発動したから日鵺は滅んだのですか?」
「おそらくな、あの少年の方が、日鵺の血統だ、ははは」

 笑う、その笑いは日鵺の復讐に対しての笑いか、それとも日鵺の力を持ってしまったが故に滅んだ日鵺に対しての笑いか
 唯乃には区別がつかなかった。
 日鵺一族、別名翡翠一族。国に存在する貴族の中でも最高位の貴族。貴族の頂点に君臨する四家の一つ。正確には七家だが、それを知る者は一部の人間にしか知られていない。そして日鵺一族は数年前ある賊により壊滅させられた。
 その日鵺一族の生き残りが罪人の牢獄に現れた。遊月は考えられずにはいられなかった。これからのことを――目的を果たす為の手段を利用を方法を利益を。


「あぁ、でも、あの罪人達を殺したのはあの女性のほうでも、その後の処理をしたのは日鵺じゃないよ」

 思い出したように遊月は唯乃に付け加える。


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