T ――外の世界は私を狂っている奴だとしたそう、狂っている可笑しいくらいにね 狂っているからこそ、 ここでは普通で居られる ――素適でしょ? 狂って捩子曲がった私の脳内をここはそうだと認めてくれるんだものね 「僕はついさっき、梓の血を分けた姉妹を殺してきたんだ。それに僕はこの世界を愛している故壊す。それでも梓は僕についてきてくれる?」 「そんな事簡単よぉ。私は姉のおかげで今の梓を手に入れることが出来たのよぉ。姉の御蔭、でも、私をこんな風にする羽目になったのも姉、だからぁ、私は別に姉がどうなろうが知らない、関心ないしぃ」 そう言って梓は自身の長い髪の毛を指に巻きつけて遊ぶ 何も本当に思ってないから、無感情のまま髪の毛をクルクルと回す。 ただ、語尾を伸ばし、何処か無邪気そうに振舞うだけ。 「それに、私という狂いを認めてくれたしねぇ」 その言葉だけは梓は笑う 怜悧に見える容姿とは違う可愛らしい表情で +++ ――ねぇ、私はどんな事をしてもさ、見つけてみたいものがあるんだ 崩壊する建物 奪われた瞳 とどとめなく溢れてくる涙 枯れない涙 目の前に自分を守るべく自分を犠牲にして守る姉 あぁなんて無力なんだろう 俺が、俺が―― 「は?」 朧埼の何かの行動をじっと見ていた遊月は思わず声を洩らした そこには、今まで出血多量でほっといても死ぬのではと思った女性がいたのに、その女性は何処へ。そんな疑問が遊月の脳内を駆け巡る。 赤に染まった女性の溢れる血は何時の間にか何もなかったように消え去った。ただ赤に染まった服と地面があるだけだった 朧埼の周りを包み込んでいたその光は 弾ける様に飛び散って炬奈の周りをウロツク その光に意志があるかの如く そして炬奈の周りでさらに飛び散った光は刹那消え去り 後に残ったのは傷が完治した女性が唯乃に銃を向けている光景だった。秒単位のこと。 しかし、その唯乃が炬奈に向うまでの間 炬奈が銃の焦点を合わせるまでの間 朧埼が炬奈の怪我を治すまでも間 そのどれもが長い時間が流れたようだった 「姉さんが死んだらこの世界に身を置いている意味がない」 それは、何かの何かだけの言葉 +++ この牢獄に入ってここで生きられる場所であるのならば この牢獄を壊そう、生きていける場所なら、生きていくための場所なら 「そう、何かを求めたいから」 梓は呟く +++ 「唯乃待て!!」 炬奈の怪我が完治したが、尚もお互いを殺そうとする二人のうち唯乃を止めようとする遊月は叫ぶ。遊月の言葉に唯乃は反応をして後ろへと跳躍した。 「なんです? 主」 「気になることがある、殺すな」 「わかりました」 素直に主の命に従って硬質化した腕を元の状態へと戻す その腕は、凍傷にかかっていた しかし、唯乃は全く気にしない 主が止めるのならば、主の命令に従うだけ。 一方の炬奈は相変わらず銃を構えたまま、遊月へと視線を変える 「誰も、復讐の邪魔はさせない、障害物となるのならば誰だろうと私は殺す」 昔をのんびりと回想なんてしない 昔の回想は 目の前で無残に原型が無いほどにされた身内 目の前で幾重にも切り裂かれていく身内 後ろで、涙を流しながら失った眼球を押える子供 ――そんな回想は、所詮私が復讐を忘れないようにする鎖 [*前] | [次#] TOP |