\ 「火の灯に唄う竜虎の焔」 女性ではなく、少年の方から、聞こえてくる魔術詠唱に、唯乃はとっさに避けようと、体は反射的に反応をしたが、紐で巻きつけられているのは、何かの術が付加されているのか、びくとも動かない。 少年の詠唱が終わると、真っ赤な竜が凍っている左腕を焼き払った 「っ……」 氷と炎の攻撃に、痛覚がやってきて一瞬顔を歪めた唯乃だったが、すぐさま、無事な右腕で炬奈の元へと攻撃を仕掛けるべくに腕を伸ばした。 金属製な鞭とも槍ともとれる形状に変化した腕はまっすぐに目標を見誤る事無く正確に炬奈を貫く。 「!!」 「姉さん!?」 ――この女性は強い、でもでも姉さんを失うことだけは絶対に、絶対に嫌だ。 そんなことがあるくらいなら あるくらいなら ――いらない 朧埼は走り出した。 到底間に合わないことは明白だったが、朧埼の身体は勝手に動いていた ――自分が死んだ方がましだ、この世、この世界中で誰よりも自分よりも愛おしくて愛していたい。日鵺炬奈を失うたくないから。そのためなら、誰を犠牲にしても構わない 「っち、何も間に合わないか?」 炬奈はまた捨て身の行動をする。核の部分にさえ、ダメージが来なければどうにでもなる。そう判断をして、炬奈は迫ってくる攻撃の視点を見極めて、避けることは不可能でも、一撃で即死することがない部分にダメージを受ける覚悟をした。 その瞬間、何かが突き刺さる 身体を突き抜けてきた攻撃に激痛を感じながらも炬奈は一種の麻痺を感じていた。 血を流しすぎたためだろうか、視界がくらくらとしてきた。 目が何かかすむ それでも足は動く、精一杯の力を込めて、倒れない。 倒れたくはない、片膝はついても、地面に倒れ伏す、なんてことはしたくない。 その意地だけが、炬奈を動かす その思いだけが、炬奈を満たす 唯乃はとらえた炬奈をそのまま殺そうとしたが、その時背後から足音が聞こえてきた この足音は主の足音、軽快に走るその足音はまるで――猫みたい 「主!? 何故こんなに早く?」 「いやいやいや、早くとも言われてもな、それよりも何をやっているんだよ。」 まだ現れないと思っていた主は予想より早く、自分が彼らを片付ける前にやってきた。都合よく。朧埼はどうしていいか、思考が回らず、やってきた青年が敵か味方かそんなことすらわからないほどに 狂って狂って狂って人は一体何を見つけるのだろう 巡って廻って回る命運の中で人はどうして正常でいられるのだろうか 普通であろうと思えば思うほど私の心は歪んでいく なら、いっその事 ワタシがワタシという存在を誇示出来るほどに 世界が歪んでしまえばいい 誰も何もが壊れた心で世界を生きればいい 全てが私を讃えればいい 狂った世界の掛け橋で ――狂乱したアナタを待っています [*前] | [次#] TOP |