Z 炬奈は覚悟した。一瞬の行動で一瞬の判断で変わることもある。 もとより魔術系統の術式は得意ではないし、短時間で回避術を唱えることは炬奈の腕では不可能だった。可能だったのは普段からやっている“空間召喚”で槍を出すことくらいだった。だがそれも槍は地面に転がり、既に空間から召喚されてしまっている以上どうすることもできない。 ならばこの場で出来ることは一つ 答えは簡単、犠牲を払えばいいだけ、生きるために他の何かを犠牲にすればいい 朧埼を守るために、生きていてもらうために他を犠牲にすればいい 炬奈は一瞬の判断で防御の体制をとった。 左腕を犠牲にして 「姉さん!!」 刹那、唯乃の腕が炬奈の左腕を切り裂いた。 貫通はしなかったが、それでも鮮明に噴き出す血飛沫は一瞬二人の視界を狂わせる。 その隙を狙い炬奈は後ろに下がる。それは臆病ともとれるほどに。 呼吸が荒くなる、左腕から留めなく滴り落ちる血 力なくぶら下がる左腕。斜めにザックリと切られた腕は麻痺することなく鮮明な痛みを脳へと伝え続ける その痛みに炬奈は思わず片膝をついてしまった 相手との距離は後ろに下がったと言っても近い。直ぐにでも立たなければ、やられる。 自分がやられたら次は朧埼だろう、そんなことはさせないその意地だけが、炬奈を動かす動力となる 「姉さん!! 血が!!」 炬奈はすぐさま立ち上がり、幸か不幸か、近くに自分が先刻投げ捨てた拳銃が落ちていた。 再び交戦意識が芽生える 自分の腕の怪我を見て遠くで傍観していた、朧埼は走ってやってこようとしていたが、それを炬奈は言葉だけでとめる。 「来るな! 朧埼、お前が来ても意味はない、その場にいろ」 残酷な言葉だが、真実を突き付ける。 朧埼は戦闘能力で言うならば、姉より弱い。攻撃手段もたいして豊富に持っているわけでもない。 それならば、今自分が走って手助けに行ったところで、何が変わるというのか、むしろ足手まといが一人増えることによって余計に戦況を不利にしてしまうのではないか、そんな思考が頭をよぎったが、そんなことはお構いなしだった [*前] | [次#] TOP |