零の旋律 | ナノ

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「誰だ? 貴様は」

 炬奈は目の前の人物に集中しながら、他にも、この女性の仲間が近くにいないか、軽く目配らせをしたが、他に人影はなかったし、気配も感じられなかった。

「私ですか? 私は人形です」
「まさかっ……!? 人形とはあの……?」

 女性の“人形”という言葉に炬奈は驚く。
 それは、炬奈の知識内にある言葉、その意味は――

「ええ、そうですよ。しかし、今はそんなことはどうでもいい。問題にすらする必要性のないものです一応、伺っておきますが、貴女ですか? あの罪人達を殺害したのは?」
「ああ、そうだ。だが問題は特にはないはずだ。……先に言っておくが、私はむやみやたらに人を殺すのが好きな殺人鬼ではない。私たちに害を成そうとしなければ、特に何かをするつもりはないぞ? それともだ、お前は困っている人や人を殺した人を許せないただの偽善者か?」

 感情の起伏の感じられない声色は意図的に、つくりだした疑似的なものであった。相手に自分の感情を知らせないために。

 大抵の「人」や深く自分たちと関わらなければ、わからない程の巧妙さを持っている、炬奈の言葉ではあったが、その疑似に初対面である唯乃は気がついた

 ――自分もそうだったから

 そうでなければ、初対面の名前も知らない女性の感情を押し殺した言葉になど、気が付かなかったであろう、
 ただ、なんて冷酷な方だとしか思わなかっただろう。

 ――あぁ、同じなのですね

 しかし、そんなことは関係なかった、唯乃にとって敵は主に害をなすもので、それは排除しなければならない対象物だったから。
 この女性と少年が主の敵ならば、唯乃にとってこの二人がどんな存在であろうとも、
どんな理由があって感情を押し殺したような言葉を吐くのかも関係のないことだった

 唯乃沙羅が願うのは主の願いを叶えることの手伝いをするだけ


 別に主――遊月ネオの幸せや幸福を願っているわけではない

 どんなに思っていても慕っていても所詮は赤の他人

 本当の幸せや幸福なんて、誰に理解出来るわけでもないから、だから唯乃は主の願いを叶える手伝いをする、例えそれが虚偽だったとしても

 自分という存在が壊れるまで、ただ、ただ遊月ネオとともに行動を共にする


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