零の旋律 | ナノ

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 是が毒だったとしても汐は耐えられる自身があった。嘗てカイヤが汐を殺そうとした時、毒殺を試みたからだ。その経緯があって現在汐は毒に耐性がある。感謝すべきか恨むべきか汐には判断がつかない。ましてや汐はカイヤを恨んで等いないのだから。恨みようがない。

「……しょっぱい」

 感想を素直に伝える。塩分の含まれている水だった。否、水というより海水に近い。

「真水じゃ伝達しないからねぇ」
「今さら気がついたところで遅い」
「……そうだね。遅い。君の目的は僕らを殺すことではなかったのだから」
「――!?」

 予想外の言葉にカイヤ以外は驚く。伊垣は不敵な笑みを浮かべる。最初から伊垣にとって全てが計画通りであったのなら。彼らがこの場所に現れる機会を淡々と待っていただけ。
 伊垣にとってはどちらでも良かった。現れようが現れまいが。どちらに転がろうとも、結論は変らないのだから。
 研究はいくら成果を上げ続けようと何れ限界が見える。その限界が他の研究者たちには見えなくとも、伊垣には見えていた。
 幕引きをする者が現れるなら、それでも構わなかった。朧埼の力を手に入れられるなら、それも構わなかった。朧埼の力を手に入れられるならまた研究を続けるだけ。
まやかしの不老不死を追い求め続けるだけ――。

「どういうことだカイヤ」

 炬奈が口を挟む。カイヤの言わんとしていることが読めない。

「あのさぁ、少しは自分で考えなよ」
「考えた処で思いつかないからだ。此処が塩分を含んだ水だというのなら、雷の属性を伝達することで私たちを殺そうとする、というのなら理解出来る。しかし私たちを殺すことが目的ではないのなら、一体何が目的なんだ?」
「つまりこの研究を壊すことが目的ってこと」
「――!? なんだと?」

 何年もの歳月を捧げ研究し続けたきた、この研究を放棄することに何の利益が生まれる。

「研究の限界が見えたからだよ。見えてしまったからこそ、此処で諦めるしかないんだ」

 いくら続けた所で先に待つ限界が明白ならば、続けた所で意味がない。

「これ以上いくら頑張ったところで完璧な不老不死は作りようがない。所詮まやかしの劣化品しか作れないのならこれ以上年月を捧げる必要はない」
「成果を全て破棄するというのか?」
「全て破棄はしないでしょ。だって過程は彼の頭の中に知識として蓄積された。その経験を生かして新たな研究を始めるだけ。でもね、研究者って基本的には他人に自分の知識を知られたくないモノなんだよ」
「だからこその破棄、か?」
「そういうこと」

 他人の手に渡ることを恐れるのなら、彼らを殺すよりも先にやるべきことがある。

「つまり、彼の目的は水と雷を併用して、電流を流し、そして水没させて研究機材を全て使えなくすること」
「燃やしたりした方が手っとり早いのではないか?」
「ん? あぁ……そりゃそうか。態々水を使うよりは手っ取り早いよね」

 カイヤもそこで考えなおす。水を使う意味は一体何か。

「まぁ、でもさ。そんなの好みの問題でしょ。それに得意な属性も違うわけだし」
「そういうことだ。それに、それ以上は考えた処で無意味だ」

 カイヤの言葉に伊垣も同意する。

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