T 逃げて逃げて逃げて、また逃げた あの時の僕は逃げることしかできなかったから 辛き闇の日々から光を求めて逃げ続けた 他人を見捨てて自分だけが生き残るために そうすることで僕は生きたんだ あの時に自分の核すらをも見捨てて…… 闇から闇への光にすがって生きるだたの「人形」 +++ 「唯乃〜お前何をしているんだ?」 「主……特には何も、ただ何か違和感を覚えるのですよ」 「違和感?」 そういって主と呼ばれた青年遊月は辺りを自分の視力で見える限りの範囲を見渡した。 特に何もない 時刻は夜、月明かりも星明りもないただの薄暗く不気味さを漂わせているだけ。昼間であろうが朝であろうが、変わらない―― “夜”といっても感覚で夜だとわかることは難しいだろう。 ここは地下だから、ここは牢獄だから 牢獄に光はない、だから朝も昼も夜も関係ない。 ただ薄暗い灰色の空が見えるだけ。何処までも続くだけ。それがさらに人から希望を奪わせる。 「特に何も俺は感じないけどな?」 一通り辺りを見回して遊月に見えたのは、東西には廃墟の建物が崩壊している。ある場所には建物の下に途中で力尽きたであろう罪人の腕や肉片の残骸が腐って木乃伊になることも白骨死体となっていることもなく、悪臭を放っていた。 自分たちが来た道である南の方角には、数時間前に殺されたであろうまだ、僅かに固まりきっていない血の跡が人だと判断が辛うじて出来るほど無残に殺されている罪人達。 全て乱雑に扱われている。見るも無残な姿と化している。 [*前] | [次#] TOP |