零の旋律 | ナノ

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 炬奈は朧埼を守るように立つ。今度こそ朧埼を守る。あの時のように悲しい思いはさせない。その為に槍術を学び、力を手に入れた。日鵺の血統にありながら治癒術が使えなかったとしても、他の貴族のように驚異的な戦闘力も知識もなかったとしても。
 朧埼だけは自分の手で守る。槍を握り締める力が自然と強くなる。炬奈が狙うのは伊垣のみ。下手に動きだすことは出来ない。
朔夜は研究員たちに向けて無数の落雷を起こす。轟く雷に打たれてすらなおも研究員たちは笑って起き上がる。服は焦げ付いたのを気にしている様子だった。

「ちぃ、なんだよこいつら。なんで起き上がるんだ?」

 朔夜は前にこの街に来た時いなかった。だからこそ知らない。

「そりゃあ。ちょっくら生態系を色々いじくったりなんだり?」

 曖昧な答えをカイヤがする。カイヤは火の玉を降らせながら応戦しているが一向に効果は見られない。汐は現状を見据えようと下手な動きはしていない。腰にある剣に手を当てているだけだ。その視線は伊垣を追っている。
 篝火は遊月や唯乃同様に前線に出て戦っている。いくら殴ったところで研究員は痛みを感じない。疲れをしらない身体が決して鋭くない攻撃を繰り出す。
 篝火は現状体力が残っている状態だからこそ軽々と交わせる。けれどそれも何時までも持つわけではない。

「今まではしっかり答えていたのに急に疑問形なんだな」
「だって専門じゃないよ。これはどっちかてーと律律の領域だし。んー術を使っているんだよなぁ、幻術ってか……」

 ぶつぶつと用語を口にするカイヤ。集中していて目の前を見ていなかったのかカイヤの目の前に斧を構えた研究員が飛び出してくる。

「えっ……!?」

 カイヤは焦るが、バランスがうまくとれない。斧はそのまま振り下ろされカイヤを貫くと思えた――けれど、汐が素早く反応する。カイヤを押しのけ間に入り、斧の柄を掴む。汐の頭上には斧。
 力任せに押し負かそうとする研究員と、それを両手を上に上げた状態で均衡状態を作り出す汐。

「エンちゃん……!」

 汐は柄から手を離す。勢いよく斧は下へ――汐に向かうが、汐は研究員の腹部を思いっきり蹴り後方に飛ばす。研究員は勢いよく飛び後ろの壁に激突する。

「カイヤ、お前これを解析出来たらなんとかなるか?」
「う、うん。多分。でもちょっと集中しないと無理っぽい。専門分野じゃないのが痛いかな」
「わかった。じゃあ俺はお前の周りに誰も入れないようにする。お前は解析に集中しろ」
「りょーかいだよ」

 カイヤは地面にしゃがみこみ、魔法陣を展開する。その中で光の粒が無尽蔵に移動する。カイヤはその光を手繰り寄せ、時に手放し解析を始める。

「あの男を殺せ」

 伊垣が解析されてはたまらないと研究員に指示を飛ばす。
 研究員がカイヤを殺そうと走り出す。それを汐は複数対一にも関わらず難なくカイヤを魔の手から守る。
 剣を巧みに操る姿は華麗で、熟練だということが一目でわかる。痛みを感じない研究者に対して圧倒的な実力で応対する。

「すげっ」

 朔夜が感想を思わず声に漏らす。これが鳶祗家、武術の名門そして雅契家、魔術の名門の実力。飛びぬけている実力こそが、名門と呼ばれる所以。
 朔夜は無数の落雷を降らし、各々の足止めをする。


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