零の旋律 | ナノ

V


「お前が結界を破ったのか……ただ者ではないようだな」

 興味が朧埼からカイヤへ移る。

「えーだって僕ならもっと頑丈な結界作るし。君の腕が悪かっただけじゃないの?」
「……私が術者だと見破っていたのか?」
「え、わからないと思った?」

 人を小馬鹿にしたような態度に、伊垣が腹を立てるかと思われた――が、伊垣は平常心のままカイヤに接する。

「普通術者を一目で見抜くことなど不可能だろ、まして俺は体形的にも思われることは少ない」
「まぁねぇ、ってか僕は術者だから、術者には術者を」

 でしょ? とはにかむ。その姿がとても高度な知識と実力を保有した実力者に見えなくて、伊垣はため息をつく。

「呆れたでしょ。もー。また解説しなきゃいけないの? そろそろ流石に面倒だから自分で理解してね」

 私は何も聞いていないが、そんな抗議が今にも聞こえてきそうだった。

「常しえの水蛇よ……我の」

 伊垣が呟きだす。それに伴い伊垣の周囲に水泡が溢れんばかりに具現する。

「げぇ、しょっぱなから術かよ」

 朧埼が顔を青くする。唯でさえあの時の光景がよみがえり恐怖している状態だ。
 術は素早く紡がれ水蛇が無数に襲いかかる。水の雫が周囲に飛散する。

「焔の謳い」

 三歩前にカイヤが飛び出し短く詠唱する。杖の先端が赤く灯を覆い、それらはカイヤたちを包み込むように弓なりに焔の壁を作りだした。
 水は焔の壁に挟まれ蒸発し水蒸気となる。

「なっ。弱点属性であるはずの炎で水を防ぐだと?」
「熟練した属性術であれば、弱点すら意味なくなるって君なら知っているでしょ?」

 カイヤは事も何気に答える。けれど伊垣はその難易度を知っている。
 つまり正面からやりあったところでは、伊垣に勝ち目がないといこと。立ち位置がまるで違った。同じフィールドにすら立っていない。
 その事実を否定することなく伊垣はすぐに認めた。
 認めざるを得なかった。

「なら、これでどうだ!」

 水属性の雨が部屋全体を襲う。

「お前ら、準備をしろ」

 伊垣が部下に指示を出し始める。遊月がさせまいと動く。爪が伸縮自在に伸び一人の研究員の腹部を貫く。

「がっ……」

 けれど研究員は倒れ伏すことはしない。遊月の爪が縮小すると同時に地面に倒れ伏したものの、研究員はすぐさま起き上がった。腹部からは血が流れているものの出血はすぐに収まった。

「なっ!? どういう……まさか」

 あの時個々で出会った生気を感じさせない彼らと同種の――何かか。遊月はすぐに理解する。
 そしてそれがさらに高度な技術だということも、進化していっている。自分の預かり知らぬ所で。
 ならないはずの心臓が鼓動を鳴らしたように感じる。
 遊月の動きを受けて他の面々も一斉に動き出す。


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