零の旋律 | ナノ

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「んーと簡単にいえば水と油」
「水と油? つまり混じり合わないってことか」
「そういうこと。反属性同士だから本来は混じり合わず反発しあうはずなんだけど、あ、別に結界術と幻術が相性悪いってわけじゃないよ。術の効力ってか性能による反発ね。だからこそ一緒にしても此処までの効力は本来なら出ないんだ」

 一目で見抜くカイヤに、遊月はただものでないことを再認識する。雛罌粟の術と言いこの場所と言い、この少年にしか見えない青年の知識と実力は並大抵ではない。
 ――流石は雅契家当主様って所か

「でもそこに中和剤みたいなものを混ぜて、二つの効力が最大限に発揮できるようにしてあるんだ。だから、これは三つの術による複合魔術ってこと」
「解除出来るのか? 凄く難しい術のように聞こえたが」
「うん。こんなの術に精通してなきゃできっこないよ」

 うんの意味がどちらにも取れたが、遊月は両方に対してだと感じたし実際そうであった。
 汐が口を挟む。

「大体どのレベルのやつらなら解除が可能だ?」
「んー多分、律律クラスから。雅契でいうなら分家でも実力のある雪城一派や諸星一派付近クラスとかなら」
「……殆ど解除できるやついねぇじゃねぇか」
「それほどまでに高度なんだよ」
「はぁ」

 汐のため息が聞こえる。それだけで会話内容が殆どわからなくても難易度が伝わって来る。
 カイヤが一歩前に出て解除にかかる。彼らには理解出来ない言語を用いて術を展開していく。
 広がる紋様は意思があるかのように移動し円を作り上げていく。
 幾つも重なる幾何学模様。それらは一つの円を中心四つの円が出来上がり、計五つの円がカイヤの前に出来、紫色の光を帯びる。紫色の光は徐々に色見を失い白へ変色する。
 白は見えない結界を煙のように覆い尽くす。硝子の欠片が砕け散るように、結界は粉々に破壊される。

「終わったよー」

 事も何気に言うカイヤに、再度雅契の当初という実力を再認識する。
 結界が破れた時。今まで白の未知なる機械しか存在しなかったが、結界が破れた今、目の前には白衣を着た研究者が現れる。人数は二十人いるかいないか。

「どいうことだ!?」

 朧埼が驚愕の声を荒げる。
 それは研究者たちも同様だ。まさかこの場所が破られるとは予想だにしていない。

「幻術の力で人は感知されないようにしていたんだよ」
「結界じゃなくてか?」
「うん。結界は結界に最大限に力を入れたいから幻術による幻覚を利用したんだ。誰もいないと見せかけるためにね」

 汐が質問をしてカイヤが解説する形が定着してきた。

「ね、ねえさん」

 こころなし震えた声が姉の名を呼ぶ。

「どうした朧埼」
「……俺、あの人見たことがある」

 朧埼は震える手を必死で抑えようとしながら人差し指でその相手を指す。
 茶色の髪に黒い瞳、年の頃合い三十代中ごろ。白衣姿が似合わない、研究者といより格闘家風情の男だ。


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