第二話:崩落の街 すぐに出発しようとした、遊月たちだったが、篝火がお茶くらい飲んで休憩しろと半ば命令に近い形で提案したため、篝火が入れたお茶を飲む。冷えた心が温まるようだった。 休憩をした所で、崩落した街へ向かう。 榴華を誘うか悩んだ挙句、榴華には何も告げないことにした。最初、榴華は遊月と唯乃を抹殺しろと命令されていた。いわば敵であった相手。 あの時は味方してくれたが、今回も味方してくれるとは限らない。ならば危険な要素を少しでも排除するに限る。榴華の戦闘能力は折り紙つきで、心強いが、それは味方である場合で、敵に回れば厄介な敵にしかならない。篝火と朔夜も何も言わなかった。 前回置いて行かれた朔夜は頑として譲らず同行した。同行の邪魔を栞がしにくることがなかった。 遊月は心の中で相変わらずの神出鬼没具合だと思う。 唯乃は周囲を警戒しながら歩く。またあの時の女性――水渚に出会うのだろうか。淡々とした口調で感情を感じさせない彼女に。 「無事に問題なく到着出来ましたね」 道中誰もやってくることなく、崩落の街に到着する。気味が悪いほどの静けさが辺りを覆う。 一か月前と殆ど変ることなく存在する崩落の街。着たのが数日前にすら感じる。 此処だけ時の流れが止まってしまったような空間。 「あぁ、そうだな唯乃」 「此処からが重要ですね主」 目的を誤ってはいけない。前回は案内人がいたが今回はいない。前回の時の記憶を手繰り寄せ遊月が先導して歩く。周辺をカイヤが口元に手を当てながら興味深そうに散策している。 「あ、この砂ちょっと持ってかえろー」 まるで遠足きた子供のようだ。 「カイヤ余りはしゃいで迷子になるなよ」 子供の後をついて歩く父親のようだ。 「エンちゃんに心配されるまでもありませんよーだ」 膨れるカイヤに汐は笑うしかなかった。微笑ましいのだか、微笑ましくないのだが判断が難しい光景。 建物に到着すると篝火が先導を切って歩く。 薄暗い建物の中でスムーズに進むためだ。篝火は抜き足差し足のような足取りで、けれど軽やかに進む。よっぽどの人物でなければ篝火の足音を聞きつけることは不可能だろう。 けれど、そういった類が苦手な朧埼や朔夜が普通に音を立てて歩いている為、無意味だった。 「……」 篝火はそういえばそうだったとすぐに思いだし普通に歩く。 暫くして目的地に到着する。この間鍵を壊したが、新たに施錠してある。誰かが此処を使用していることは明白だった。篝火がお得意の技でピッキングをする。手慣れたものだ。 「何、お前泥棒?」 汐のひと言。篝火は頷く。 「ってか、カイヤに術で破壊して貰えばいいんじゃねぇのか?」 とは言わなかった。 「ほわわ」 カイヤが表現しがたい声を上げる。白で彩られた世界。ここは夢現世界なのではと思わせる程に。境界が曖昧ではっきりしない。 「何これ、凄っ。こんな結界術と幻術の組み合わせなんて相当ないよ」 「どれくらいないんだ?」 遊月が問う。術に関する知識が余りない遊月にとって、相当ないという意味はどれ程のレベルか理解出来ない。 [*前] | [次#] TOP |