W 「あいつにとって、夢華はそれほどまでに重要なやつだったんだよ」 「そうこいうことなんだな」 「あぁ……だからこそ……」 「相変わらず、お前は過保護だな」 「……そうか?」 「あぁ」 汐は昔からカイヤを見てきた。だからこその言葉。炬奈もそれに同意する。 「で、ネオお前はちゃんと戻ってきたが、解決策は無事に見つかったか?」 朔夜が遊月に問いかける。遊月はあぁと頷いて、炬奈たちの復讐相手の存在も入手出来たことを伝える。 「汐とかは何故きたんだ?」 本来汐は関係ないはずだ。それなのに罪人の牢獄にやって来る必要性は何処にもない。 命を危険にさらすだけ。 「頼まれたんだよ。カイヤが何かを仕出かさないか止めてほしいって」 「そんなにあいつ危険人物なのか? まだ、十代中頃くらいの少年だろ? まぁ年齢が危険度に比例するわけではねぇけど」 朔夜には天真爛漫な少年にしか見えない。 「カイヤは二十四歳だぞ」 「……は?」 朔夜は呆ける。炬奈は苦笑する。カイヤはどう見ても二十代の容姿には見えないからだ。 「どんだけ童顔だよ。二十四とかありえねぇだろ! しかも言動が二十四には見えねぇ!」 「因みに俺は二十五」 「あーうん。それっぽい」 汐の年齢には納得する。汐は落ち着いた雰囲気からして年齢にあっている。 「まぁカイヤはバーンとかいいながら火の玉を降らすような性格だと思ってくれ」 「うわっ、それ危険人物だな」 「色々あるのさ」 「……ってかなんかもう此処牢獄じゃないよな」 一度堕とされれば二度と出ていくことの出来ない牢獄。罪を犯した人が送られる奈落の地。死の大地。 けれど今や外の人間が牢獄に行き来するようになっている。 過去、白き断罪がこの街を襲った時、生き残った断罪者はこの牢獄から姿を消した。 それは既に此処が閉ざされた場所ではないことを告げているようだった。最も――朔夜はそれより以前から罪人ではない者の存在を知っている。この牢獄から生まれ育った者を指しているわけではない。外から自らこの地へ赴いた者のこと。 「カイヤにかかれば仕方がない」 「まぁいいけど」 朔夜は別に外からの来訪者を嫌っているわけではない。いい想い出があるわけでもないが。 「まぁ生きて戻れよ」 ぶっきら棒に朔夜は言い放つ。 「そういえば、お前は外に出たいとか思ったことないのか?」 汐の疑問。外と行き来が可能ならば、外に出たいと元の生活に戻りたいと願うものも少なからずいるのではないか。いくらこの牢獄に街があったとしても、外より制限されることは多い。 「いや、興味ねぇよ」 「そうなのか」 「ってか俺はこの牢獄で育ったんで、外の世界を殆ど知らないってだけ」 汐は納得した。だからこその無関心。元の生活に戻りたいと願うも何も、そもそも前提条件がないのならば。 「まぁ治安がいいとか、そんなことをいい切れるつもりは到底ないけれど、それでもこの牢獄よりましだとは思うが」 此処で育ったのなら、彼は罪を犯した人なのだろうか、汐の中で疑問が沸々と沸き上がる。 けれど問いただすような野暮なことはしない。人それぞれ隠しておきたい秘密はいくらでもある。 「まぁ罪人じゃないしな」 例え罪を犯し逃げ伸びた人がいたとしても、ほぼ全ての人間が罪人であるこの牢獄とは別物だ。 「あぁ」 仄々とした会話をしている時、部屋の扉が開いた。 カイヤの顔は心なしか沈んでいる。 「終わったぞ。で今すぐにいくのか?」 「あぁ、出来るならそうしたいが、一度寝床を確保して置きたい。すぐに終わるとは限らないからな」 外で悠々と寝られる程、この罪人の牢獄の安全度は高くない。だからこそ、余計な体力を消耗しない為、安全な寝床を確保したかった。 「なら、榴華のとこと俺んとこで寝りゃいいよ。雑魚寝のぎゅうぎゅうずめでもいいなら、俺んとこだけで何とかなるだろうけど」 「そうする」 「榴華んとこは、後でいっても大丈夫だろ。榴華だし」 「はは、そうさせてもらうよ」 朔夜の提案は遊月にとって有難いものだった。 昔と変わらず――昔より口が悪くなっても、遊月にとって朔夜は裏切ってしまった友達。今度は裏切らずに一緒にいたい。 [*前] | [次#] TOP |