V 「雅契カイヤと鳶祗汐(えんし じゃく)だ」 炬奈が名字を隠すことなく紹介する。 「あぁ。魔術師と……なんだってどっかで鳶祗って聞いたことが……あぁ、あの貴族か」 うろ覚えな朔夜の態度に汐は目が点になる。 「鳶祗のことをそんな態度で示されたのは初めてだ」 「こいつ世間知らずだから気にしなくていいよ」 「そうか」 「あぁ、俺は篝火(かがりび)宜しく」 「篝火! 君が」 汐との会話に割り込む。後ろを歩いていたカイヤが前に出てくる時に汐と炬奈の間を手で押しのけて前に顔を出す形になる。なった後、汐が近くにいたことに嫌悪感を示した。 「雅契カイヤに渡したいものがあるんだ」 「何を」 篝火は一旦自室に物を取りに行く。それは託された物。 自分を救おうとしてくれた人が残したもの。 「これだ」 透明なガラスケースにいれ、大切に二年間保管していたものをカイヤに渡す。 「これって……」 中に入っていたのは夢華が肌身離さずつけていた赤い薔薇の髪飾り。真っ白を醸し出していた夢華の中で色を彩っていたもの。 「お前に渡してくれって言われたんだ」 「これ、僕が上げたやつなんだよね、夢華凄く似合っていたのに……」 悲壮感を漂わせるカイヤに、汐は何も言えない。夢華のことで悲しんでいたのを目の当たりにしているからだ。そして、その後カイヤがどんな行動に出たのかも全て汐は知っていた。 夢華はカイヤにとって唯一の大切な存在。従兄弟だった。 信用することがないカイヤが唯一信用していた相手といっても過言ではない。 夢華はカイヤの心の拠り所だった。 「有難う。これを大切に保管してくれて」 このガラスケースが決して安ものではないことに、カイヤは気が付いていた。それだけ傷がつかないように保管していたことに他ならない。 夢華を嘗て助けた人物――篝火。夢華との話をカイヤは知りたかった。自分が知らないところで出会った人の話を。 「夢華の話を聞かせて貰ってもいいかな?」 「……あぁ、いいさ。なら俺の部屋に。お前らはお前らで話しあいがあるだろう? 終わったら行く」 邪魔にならないように篝火は移動する。その後ろをカイヤはついていく。 「あのカイヤの表情は偽りじゃない本心からなんだな」 カイヤの無邪気さは、ある種の偽り。 生き残るための術。一見すると当主に見えない振舞いが染みついているのだ。 それが素であり偽り。 真であり嘘 [*前] | [次#] TOP |