零の旋律 | ナノ

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「そうなんだ、でも問題なければ教えてほしいな」

 尚もカイヤは名字を尋ねる。そのことを聊か疑問に思いながら、構わないと雛罌粟は名字を告げた

「……櫻(さくら)だ」
「櫻雛罌粟(さくら ひなげし)ね……んー凄いね」
「会話の内容が我には読めないのだが」

 雛罌粟に限ったことではなく、カイヤ以外が全員疑問を浮かべている。視線は自然とカイヤに集まる。

「いや、だって雛罌粟って術で年齢を若返らせているでしょ?」
「お主気がついたのか?」

 雛罌粟の術の力を初対面で見破ったものは、これまでで二人目だった。

「そうなのですか? 主」

 雛罌粟本人ではなく遊月に唯乃は問う。遊月が普通の対応をしていたということは、それを承知していたことになる。

「ん、あぁ。雛罌粟は術で年齢を若くしているから、昔からこの姿のままなんだよ」
「そうでしたか」

 唯乃は納得する。それならば見た目に似合わぬ貫録を備えているのにも、納得出来るからだ。

「お主は何故気がついたのだ」

 再度雛罌粟は繰り返す。初対面の相手は雛罌粟の容姿を見ただけで驚く。幼い子供が罪人の牢獄にいて、それだけではなく第二の街の支配者なのだから。

「うーと、説明するの面倒だから僕の名前名乗っちゃうね。雅契カイヤ」
「……成程な」

 雛罌粟は名前で全てを理解する。それと同時にこの人物が罪人ではないことを理解する。

「それで我の名字を聞きたがっていたわけか」
「そういうこと。だって年齢を変える術なんて高度だよ。それを常時やっているなんて並大抵の術師じゃ出来っこないもの」

 未だに理解が追いつかない炬奈たちは、痺れを切らし直接問う。

「おい、カイヤ。私たちにも理解出来るように説明しろ」
「えー」
「我が説明しよう。つまりカイヤは我が術者であり、術を常に使用していることに気がついた。大抵の術者は雅契に連なるものが多い。だからこそ我の名字を聞いて我が雅契に連なるか、はたまた別の術者か知りたかったということだろ」

 カイヤにとって知っている名字であればそれは雅契に連なるもの、もしくは貴族たち。けれど雛罌粟の名字をカイヤは知らなかった。だからこその凄い。

「そういうこと。だって此処まで高度な術を使える術者なんて怱々お目にかかれるものじゃないよ。もっとも僕らは常にそういった奴らと会いう機会も多いけれどね」
「我は東の方で巫女をやっておった。知らなくて当然だろう」
「こりゃまた珍しい職業だこと」

 汐が口を挟んで興味を示す。

「もー、エンちゃん。僕の会話の邪魔をしないでよ」
「というかお主ら済まぬな。此処で立ち話もあれだろう。中へ這入れ。生憎今蘭凛はいないのだがな」
「蘭凛?」

 カイヤが怪訝そうに顔を顰める。

「あぁ、我と行動を共にしている双子じゃ」
「それってもしかして蘭舞と凛舞?」
「知っておるのか?」
「蘭舞、凛舞は楽羽の人間だからね。雅契の分家だよ」

 簡潔に説明する。意外なところで接点が見つかることに、蚊帳の外状態の面々はそんなこともあるんだと、偶然に驚いていた。


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