零の旋律 | ナノ

第一話:再び


 光も闇も存在しない。太陽も月も昇らない。曇天とした空が続くだけの世界――罪人の牢獄。
 彼らは、罪人の牢獄の何処かに到着した。眩い光が彼らを中心に円状に浮かびあがり、光が終息すると同時に、彼らの視界もクリアになる。見渡す限りの砂。所々に瓦礫と化した嘗て建物だったもの。

「此処からだと、第二の街が近いな」

 罪人の牢獄に赴いたことがないカイヤは、転位術での当着地点を、事前に聞いていた情報からおおよその目安をつけて発動した。
 余程の場所に到着しない限り、嘗て罪人の牢獄に住んでいた遊月がいるので問題ない。

「篝火って人は第二の街にいるの?」
「いや、第一の街にいるんだが、とりあえず第二の街を経由していこうと思う」
「ふーん、わかったよ」

 カイヤの目的は篝火に会う事。早く会いたい、夢華の事を聞きたい。その気持ちが強い。しかし、地の利がない場所で意見を貫き通すよりも、地の利に詳しい遊月に従った方が結果として早く会えるとカイヤは素直に従う。
 遊月が先導したお蔭で、第二の街へは数十分で到着した。

「へ? 此処が罪人の牢獄なのか? イメージと大分違うのだが」

 汐が率直な感想をいう。整ったカントリー調の建物は整備がしっかりとされている。街の中心には噴水もあり、全体的に煉瓦で建造されている。
 街を歩いている罪人達の服にも返り血は付着していないし、同一の服装ではなく此処が個性を強調するかのように十人十色だ。

「エンちゃんと同意見ってのがムカつくけど同意」
「この街は特別だ。罪人の牢獄で一番の安全地帯だ。この街を支配している支配者雛罌粟が無益な争いを好まない性格でな、それが反映されているのさ」
「それを素直に罪人が従うとは思えないのだが」
「大抵この牢獄に来たやつらはそういうよ。この街だけ毛色が違うのさ。雛罌粟になんならあっていくか?」
「会いたーい」

 興味が沸いたのだろうカイヤが手を上げて身体を左右に揺らした。

「カイヤその動作一々止めろ」

 炬奈が注意をするが、カイヤは気にとめない。

「じゃあ行くか」
「俺もそういや雛罌粟って会ってないや」

 朧埼と炬奈、そして唯乃は雛罌粟を知らない。名前は知っていても実際に会ったことはないからだ。
 朧埼と炬奈は復讐をする時に、第二の街の現状を聞いたとき、復讐相手がいるとは思えず飛ばした。唯乃は遊月とともに第一の街の後はすぐに最果ての街を行動拠点にしていたからまた然り。
 だからこそ興味がないといえば嘘になる。

「多分、此処だと思うぞ。……住居が変っていなければ」

 二階にある階段を上がり呼び鈴を鳴らす。暫くすると扉が開く。

「誰じゃ?」

 扉から顔を出したのはピンク色の髪の毛に赤い瞳。可愛らしい相貌、年の頃合い十三。
 赤を中心とした和服に身を包んでいる。

「お主……まさかネオか?」

 驚愕に目を見開いている。

「そのネオです」
「成程、大きくなったな」
「雛罌粟はお代わりないようで」

 雛罌粟の年齢に会わない口調に違和感を覚える彼らだったが、カイヤだけが興味深そうに雛罌粟を眺める。

「お主なんだ? 我を凝視するなどと……」
「雛罌粟って名字何?」
「……この牢獄では名字は名乗らないのが暗黙の了解だとお主は知らぬのか?」

 聊か怪訝そうにする雛罌粟。それも当然だ。この牢獄は名字を名乗らないのが一般的。それなのに前触れもなく名字を聞いてきたのだから。


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